・・・ 見ても、何でも分ったような、すべて承知をしているような、何でも出来るような、神通でもあるような、尼様だもの。どうにかしてくれないことはなかろうと思って、そのかわり、自分の思ってることは皆打あけて、いって、そうしちゃあ目を瞑って尼様に暴・・・ 泉鏡花 「清心庵」
・・・あいにく神通がないので、これは当然に障子を開け、また雨戸を開けて、縁側から庭へ寝衣姿、跣足のままで飛下りる。 戸外は真昼のような良い月夜、虫の飛び交うさえ見えるくらい、生茂った草が一筋に靡いて、白玉の露の散る中を、一文字に駈けて行くお雪・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・と謂われて返さむ言も無けれど、老媼は甚だしき迷信者なれば乞食僧の恐喝を真とするにぞ、生命に関わる大事と思いて、「彼奴は神通広大なる魔法使にて候えば、何を仕出ださむも料り難し。さりとて鼻に従いたまえと私申上げはなさねども、よき御分別もおわさぬ・・・ 泉鏡花 「妖僧記」
・・・小角や浄蔵などの奇蹟は妖術幻術の中には算していないで、神通道力というように取扱い来っている。小角は道士羽客の流にも大日本史などでは扱われているが、小角の事はすべて小角死して二百年ばかりになって聖宝が出た頃からいろいろ取囃されたもので、その間・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
出典:青空文庫