・・・平たくいうと、当時は硯友社中は勿論、文学革新を呼号した『小説神髄』の著者といえども今日のように芸術を深く考えていなかった。ましてや私の如きただの応援隊、文壇のドウスル連というようなものは最高文学に対する理解があるはずがなかった。面白ずくに三・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・後の『小説神髄』はこれを秩序的に纏めたものだが、この評論は確かに『書生気質』などよりは重かった。世間を敬服さした。これも私は丁度同時にバージーンの修辞学を或る外国人から授かって、始終講義を聞いていた故、確かにその一部をバージーンから得たらし・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・も杓子も持っていて、私はそんな定評を見聴きするたびに、ああ大阪は理解されていないと思うのは、実は大阪人というものは一定の紋切型よりも、むしろその型を破って、横紙破りの、定跡外れの脱線ぶりを行う時にこそ真髄の尻尾を発揮するのであって、この尻尾・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・手帳と鉛筆とを携えて散歩に出掛けたスコットをばあざけりしウォーズウォルスは、決して写実的に自然を観てその詩中に湖国の地誌と山川草木を説いたのではなく、ただ自然その物の表象変化を観てその真髄の美感を詠じたのであるから、もしこの詩人の詩文を引い・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・こういうのがいわゆるジャーナリズムの真髄とでもいうのであろう。 ついこのあいだもある学者がアメリカの学会へ行って「黄海の水を日本海へ注入して電力を起こす」という設計を提出して世界の学者を驚かせたという記事が出た。数日後に電車でひょっくり・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・しかし一人のアインシュタインを必要とした仕事の中核真髄は、この道具を必要とするような羽目に陥るような思考の道筋に探りあてた事、それからどうしてもこの道具を必要とするという事を看破した事である。これだけの功績はどう考えても否む事はできないと思・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・日常生活の拘束からわれわれの心を自由の境地に解放して、その間にともすれば望ましき内省の余裕を享楽するのが風流であり、飽くところを知らぬ欲望を節制して足るを知り分に安んずることを教える自己批判がさびの真髄ではあるまいか。 俳句を修業すると・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・なおそれのみに止まらず、紅雨は門と玉垣によって作られた二段三段の区劃を眺めてメエテルリンクやレニエエなどが宮殿の数ある柱や扉によって用いたような象徴芸術の真髄を会得したようにも感じた。」 実際この二世紀以前の建築は自分に対して明治と・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・それを一通り調べてもまだ足らぬ所があるので、やはり上代から漕ぎ出して、順次に根気よく人文発展の流を下って来ないと、この突如たる勃興の真髄が納得出来ないという意味から、次に上代以後足利氏に至るまでを第一巻として発表されたものと思われる。そうは・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・これが宗教の真髄である。宗教の事は世のいわゆる学問知識と何ら交渉もない。コペルニカスの地動説が真理であろうが、トレミーの天動説が真理であろうが、そういうことは何方でもよい。徳行の点から見ても、宗教は自ら徳行を伴い来るものであろうが、また必ず・・・ 西田幾多郎 「愚禿親鸞」
出典:青空文庫