・・・と合わせて、私は永年の友達であるこの著者の人柄や心持ちなどの真髄を、あらためて印象のうちに纏められたような心持がした。 いきなり人について云いはじめるのは妙なようだけれども、先頃『現代文学論』の評として書かれた或る文章のなかに、窪川とい・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・ 探偵小説の面白味というものの真髄はどこにあるのであろう。そして、外国ではどうか知らないが、何故日本では医学方面の専門家が、この探偵小説を執筆するのであろう。法医学的な分野で接近があり、心理学、神経病理学とのつながりがあるからなのだろう・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・を書いたのは明治二十年のことで、二十七歳の坪内逍遙先生が「小説神髄」をあらわし、「当世書生気質」を発表して「恰も鬼ケ島の宝物を満載して帰る桃太郎の船」のように世間から歓迎された二年後のことであった。三つ年下だった二葉亭はその頃のしきたりで当・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・そのこともやはり恋愛の真髄にふれている。 安倍さんの言葉は、或る価値をもってある種の青年の心をめざましたろう。大学というところを就職のための段階という風に考えている若い人も相当あって、それらの人たちは就職線に向っては互に競争者の関係にお・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
日本原理の上に樹つ新日本諸学を建設し、全国民に日本文化の神髄を深く自覚せしめるための日本文化中央連盟が、松本学氏などを中心として実業家、役人、学校経営者などによって結成された。百万円をかけて、日本文化大観を編纂するのもよい・・・ 宮本百合子 「世界一もいろいろ」
・・・そして、私の忠実な僕の芸術家達は、巫女のような洞察で天と人類とのゆきさつを感じ、様々な形で生存の真髄を書きとめ刻みつけ彩って行くのです。……さあ、それでは出かけて、もう一まわり、独特な鼓舞で励ましておやり。仕事は辛い。なかなか容易には捗取ら・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・バルザックは社会的現実を再現し、而もそれを金銭、利害の根源との相互関係において芸術に表現するためには、実に声をあげて群がり来る無数の印象を掻きわけ、観念ととり組みつつ、全く「自然が真裸になって、その真髄を示すのやむなきに至るまで、根気よく持・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 日本における現代文学の黎明は、明治十八年春廼やおぼろ坪内雄蔵の「小説神髄」によって不十分ながら輪廓を示された写実主義の主張をもって始った。当時、春廼やは「彼の曲亭の傑作なりける八犬伝中の八士の如きは、仁義八行の化物にて決して人間とは云・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・偉大な西洋文明を真髄まで吸収しつくした後に、初めて真に高貴な日本的がその内に現われるのではないだろうか。 この際このことを言うのはやや自己弁解に類する。しかし私はそう信じている。 今度の世界戦争は恐らく Menschheit の向上・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
・・・との二様生活こそダンテの真髄である。ヴェロナにありて、森の奥深くさまよいては栄ある天堂を思い、街を歩みては「あれこそ地獄より帰りし人よ」と指さされる。この悲境にあって詩人は深厳なる人世の批評をなしつつ断乎として悪を斥けた、黄金と虚栄とを怒罵・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫