・・・四十を越えて、それまでは内々恐れて、黙っていたのだが、――祟るものか、この通り、と鼻をさして、何の罰が当るかい。――舌も引かぬに、天井から、青い光がさし、その百姓屋の壁を抜いて、散りかかる柳の刃がキラリと座のものの目に輝いた時、色男の顔から・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・撫子 出刃は私に祟るんです。早く、しまって下さいな。その 何でございますか、田舎もので、飛んだことをしましたわ。御免なさい、おりくさん、お詫をして頂戴な。りく お気に障りましたら、御勘弁下さいまし。撫子 飛んでもない。お辞儀・・・ 泉鏡花 「錦染滝白糸」
・・・親身といってほかにはないから、そこでおいらが引き取って、これだけの女にしたのも、三代祟る執念で、親のかわりに、なあ、お香、きさまに思い知らせたさ。幸い八田という意中人が、おまえの胸にできたから、おれも望みが遂げられるんだ。さ、こういう因縁が・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・「その上若い女に祟ると御負けを附加したんだ。さあ婆さん驚くまい事か、僕のうちに若い女があるとすれば近い内貰うはずの宇野の娘に相違ないと自分で見解を下して独りで心配しているのさ」「だって、まだ君の所へは来んのだろう」「来んうちから・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・よりほかの語が出て来なかったのである、正直なる余は苟且にも豪傑など云う、一種の曲者と間違らるるを恐れて、ここにゆっくり弁解しておくなり、万一余を豪傑だなどと買被って失敬な挙動あるにおいては七生まで祟るかも知れない、 忘月忘日 人間万事漱・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
出典:青空文庫