・・・など、多少、いやしく調子づいたおしゃべりはじめて、千里の馬、とどまるところなき言葉の洪水、性来、富者万燈の御祭礼好む軽薄の者、とし甲斐もなく、夕食の茶碗、塗箸もて叩いて、われとわが饒舌に、ま、狸ばやしとでも言おうか、えたい知れぬチャンチャン・・・ 太宰治 「創生記」
・・・神田の祭礼。柏木の初雪。八丁堀の花火。芝の満月。天沼の蜩。銀座の稲妻。板橋脳病院のコスモス。荻窪の朝霧。武蔵野の夕陽。思い出の暗い花が、ぱらぱら躍って、整理は至難であった。また、無理にこさえて八景にまとめるのも、げびた事だと思った。そのうち・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・ 終唱 そうして、このごろ 芸術、もともと賑やかな、華美の祭礼。プウシュキンもとより論を待たず、芭蕉、トルストイ、ジッド、みんなすぐれたジャアナリスト、釣舟の中に在っては、われのみ簑を着して船頭ならびに爾余の者とは自・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・いちばん華やかな祭礼はお葬いだというのと同じような意味で、君は、ずいぶん好色なところをねらっているのだよ。髪は?」「日本髪は、いやだ。油くさくて、もてあます。かたちも、たいへんグロテスクだ。」「それ見ろ。無雑作の洋髪なんかが、いいの・・・ 太宰治 「雌に就いて」
・・・毛皮市場や祭礼の群衆の中にわれわれの親兄弟や朋友のと同じ血が流れている事を感じさせられ、われわれの遠い祖先と大陸との交渉についての大きな疑問を投げかけられるのであった。最後のクライマックスとして、荒野を吹きまくる砂風に乗じていわゆる「アジア・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・たしか富士吉田町の火祭りの光景を写したものの中に祭礼の太鼓をたたく場面がある。そのとき、もちろん無声映画であるのにかかわらず、不思議なことには、画面に写し出された太鼓のばちの打撃に応じて太鼓の音がはっきり耳に聞こえるような気がした。よく注意・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・下町は昨日の祭礼の名残で賑やかな追手筋を小さい花台をかいた子供連がねって行く。西洋の婦人が向うから来てこれとすれちがった。牧牛会社の前までくると日が入りかかって、川端の榎の霜枯れの色が実に美しい。高阪橋を越す時東を見ると、女学生が大勢立って・・・ 寺田寅彦 「高知がえり」
・・・ それは美しい秋晴の日であったが、ちょうど招魂社の祭礼か何かの当日で、牛込見附のあたりも人出が多く、何となしにうららかに賑わっていた。会場の入口には自動車や人力が群がって、西洋人や、立派な服装をした人達が流れ込んでいた。玄関から狭い廊下・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・この数は二、三、四、五、六のどれでも割り切れるから、一年おきの行事でも、三年に一度の万国会議でも、四年に一度のオリンピアードでも、五年六年に一度の祭礼でも六十年たてばみんな最初の歩調をとり返すのである。その六十年はまたほぼ人間の一週期になる・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ この神社の祭礼の儀式が珍しいものであった。子供の時分に一二度見ただけだから、もう大部分は忘れてしまったが、夢のような記憶の中を捜すとこんな事が出て来る。 やはり農家の暇な時季を選んだものだろう。儀式は刈り株の残った冬田の上で行なわ・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
出典:青空文庫