・・・ 罹災民諸君が何日ぶりかで、諸君の家へ帰られる日の午前に、僕たちは、僕たちの集めた義捐金の残額を投じて、諸君のために福引を行うことにした。 景品はその前夜に註文した。当日の朝、僕が学校の事務室へ行った時には、もう僕たちの連中が、・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・何万円とか書いた福引の広告ももう一向に人の視線を引かぬらしい。婆芸者が土色した薄ぺらな唇を捩じ曲げてチュウッチュウッと音高く虫歯を吸う。請負師が大叭の後でウーイと一ツをする。車掌が身体を折れるほどに反して時々はずれる後の綱をば引き直している・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・元日に外科では手術室をすっかり片づけて恒例福引をし、今年は木村先生の盲腸の手術、指も入らない、で子供の指環をとった看護婦があったそうだ。 おなかの丸みで、細い医療用の物尺がうまくおさまっていない。木村先生はベッドの裾の方から廻って窮屈な・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・中井から家へ来るまでの、ほんの一二丁の町並も、もう松飾りをしたりして、福引をやっている。うちの瀬戸さんは、そこでモチアミをあてました。 神田では三省堂を出てから夜店の古本を見て十銭でエジソン伝など掘出し、あすこの不二家へよってコーヒーと・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫