・・・ ところで、それ以前、約二週間中隊は、支那部落で、獲物をねらう禿鷹のように宿営をつゞけていた。 その間、兵士達は、意識的に、戦争を忘れてケロリとしようと努めるのだった。戦争とは何等関係のない、平時には、軍紀の厳重な軍隊では許されない・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・数羽の禿鷹コンドルを壁の根もとに一列につないでおいて、その前方三ヤードくらいの所を紙包みにした肉をさげて通ったが、鳥どもは知らん顔をしていた。そこで肉の包みを鳥から一ヤード以内の床上に置いてみたが、それでもまだ鳥は気がつかなかった。とうとう・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
・・・若い親たちと赤ン坊とのあの家族写真には見えない空のどこかに、その残酷さが、禿鷹のように舞っているのだろうか。 八月一日の『ニュース・ウィーク』には、はからずも王女エリザベスの二つの表情がのせられている。その一つは、涼しい夏別荘の芝生で無・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・プロメシウスが、ジュピターによって地球の骨といわれたコーカサスの山にしばりつけられ、日毎新しくなる肝臓を日毎にコーカサスの禿鷹についばまれて永遠に苦しみつづけなければならない罰を蒙った、というこの物語の結末を、後代からは叡智の選手のように見・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
出典:青空文庫