・・・『経世偉勲』の発行されたのはあたかも侯井上の欧化政策時代であって、その頃学堂はジスレリーに私淑しているという評判だった。が、政治家としての尾崎は相応に見識があったろうが、ジスレリーを私淑するには学堂の文藻は余りに貧しかった。尤も日本の政治家・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・している見事さは、市井事もの作家の武田麟太郎氏が私淑したのも無理はないと思われるくらいで、僕もまたこのような文学にふとしたノスタルジアを感ずるのだ。すくなくとも秋声の叫ばぬスタイル、誇張のない態度は、僕ら若い世代にとってかなわぬものの一つだ・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・その作家魂を私淑し、尊敬しながら、なんだか会うのが怖い作家は、室生氏である。会う機会を得た作家は、会うた順に言うと、藤沢、武田、久米、片岡、滝井、里見の諸氏。最近井上友一郎氏に会い、その大阪訛をきいて、嬉しかった。 小説の勉強をはじめて・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・ 鉄腸居士を父とし、天台道士を師とし、木堂翁に私淑していたかと思われる末広君には一面気鋒の鋭い点があり痛烈な皮肉もあった。若い時分には、曲ったこと、間違ったことと思う場合はなかなか烈しく喰ってかかることもあったが、弱いものにはいつもやさ・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・レーリーの私淑したと思わるるトーマス・ヤングの記念標と丁度対称的に向き合っている。除幕式は一九二一年十一月三十日、ジェー・ジェー・タムソンの司会の下に行われた。その時のタムソンの演説はさすがにレーリー一代の仕事に対する簡潔な摘要とも見られる・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・ 今からほぼ十年ほど前に、慶応の国文科をで、葛西善蔵、宇野浩二らに私淑し、現在では秋田県の女学校教師であるこの作家の特徴は、非常に色彩のつよい、芝居絵のような太い線で、ある意味での誇張とげてものの味をふりまきながら、身振り大きく泣き笑い・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
出典:青空文庫