・・・しかしながらこの意欲そのもの、すなわち生の実質にかかわりなく純粋に形式的に行為を決定するということは、実は非常に意味のあることであって、私見によれば、われわれはかくするときにのみ道徳的懐疑を免れ得るのである。行為の決定にあたって、ひとたびわ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・こゝには便宜上後者によつて私見を述べんとするもの也。 先、堯典に見るにその事業は羲氏・和氏に命じて暦を分ちて民の便をはかり、その子を措いて孝道を以て聞えたる舜を田野に擧げて、之に位を讓れることのみ。而してその特異なる點は天文暦日に關する・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
あなたは文藝春秋九月号に私への悪口を書いて居られる。「前略。――なるほど、道化の華の方が作者の生活や文学観を一杯に盛っているが、私見によれば、作者目下の生活に厭な雲ありて、才能の素直に発せざる憾みあった。」 おたがいに・・・ 太宰治 「川端康成へ」
・・・ 緒論で断わってあるとおり、以上の所説は、特殊な歴史と環境とをもった一私人の一私見に過ぎないのであって、おそらく普遍性の少ない僻説であろうと思われる。しかし、そういう僻説を少しも修飾することなしにそのままに記録するということが、かえって・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・自分などはもとよりこの六かしい問題に対して明瞭な解答を与えるだけの能力は無いのであるが、ただ試みに以下にこの点に関する私見を述べて先覚者の教えを乞いたいと思う次第である。 科学の進歩に伴う研究領域の専門的分化は次第に甚だしくなる一方であ・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・これはむつかしい問題であるが、私見によると、二つの対象が対立して、それが総合的に一つの全体を完了する、いわば弁証法的とでも言われる形式を備えるのが「切れる」の意味であるらしく思われる。少なくもこれが自分の現在の作業仮説である。「や」はその上・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・今のところ明白な説明はできそうもない。私見によるとおそらくこれは四拍子の音楽的拍節に語句を配しつつ語句と語句との間に適当な休止を塩梅する際に自然にできあがった口調から発生したものではないかと想像されるのであるが、これについては別の機会に詳説・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・ 以上はただ一個の学究の私見で一つの理想に過ぎない。多数の学者ことに教育者の側から見れば不都合な点も多くあるかもしれないし、自分でも十分に意を尽さぬために誤解を生じはせぬかと思う点もあるが、ともかくも思うままを誌して大方の叱正を待つので・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
出典:青空文庫