・・・ たとえば前イギリス皇帝の場合にしても皇位を抛ってまでもの、シンプソン夫人への誠実を賞賛するにおいて私は決して人後に落ちるものではないが、もしかりに前英帝にイギリスの政治的使命についての、文明史的自覚が燃えていたとするならば、それでもそ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 正宗谷崎二君がわたくしの文を批判する態度は頗寛大であって、ややもすれば称賛に過ぎたところが多い。これは知らず知らず友情の然らしめたためであろう。あるひは幾分奨励の意を寓して、晩年更に奮発一番すべしとの心であるやも知れない。わたくしは昭・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・メーン・ドゥ・ビランはパスカルが賞讚するといった ceux qui cherchent en gmissant[うめきながら探求する者]というような哲学者であった。「センス」でもない「ジン」でもない「サンス」は、一面において内面的と・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・あまり水裡の時間が長いので、賞賛の声、羨望の声が、恐怖の叫びに変わった。 ついに野球のセコチャンが一人溺死した。 湖は、底もなく澄みわたった空を映して、魔の色をますます濃くした。「屠牛所の生き血の崇りがあの湖にはあるのだろう」・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・孝婦伝など見れば、何々女は貞操無比、夫の悪疾を看護して何十年一日の如し云々とて称賛したるもの多し。先生の如きも必ず称賛者の一人たるは疑を容れず。左れば悪疾の妻は会釈なく離縁しながら、夫に悪疾あれば妻に命じて看護せしめんとするか。ます/\解す・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・際は、ただ文字の一方に偏し、いやしくもよく書を読み字を書く者あれば、これを最上として、試験の点数はもちろん、世の毀誉もまた、これにしたがい、よく難字を解しよく字を書くものを視て、神童なり学者なりとして称賛するがゆえに、教師たる者も、たとえ心・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・歌人として彼を賞賛するに千言万語を費すとも過賛にはあらざるべし。しかれども彼の和歌をもってこれを俳句に比せんか。彼はほとんど作家と称せらるるだけの価値をも有せざるべし。彼が新言語を用うるに先だつ百四、五十年前に芭蕉一派の俳人は、彼が用いしよ・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・といわれたケーテは、今やドイツの誇りとして、あらゆる方面からのぎょうぎょうしい新たな称賛と敬意とを表された。 同時に、ケーテの芸術が真に勤労者生活を描いているからこそ生じている社会的な迫力を、ぼんやりとただ愛という宗教的なものとして解釈・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・未来のために与えられる一つの援助は、過去に向って与えられる賞讚よりも常に高貴であるという言葉を、新たな感動をもって思い浮べる次第です。〔一九四〇年五月〕 宮本百合子 「健康な美術のために」
・・・というのは、これが翻訳小説であったならば随分佳作として称讚したのではないかと云うこと。おかしな云い方だが、日本の小説性格形成の過程と、西洋的のとは、根本的に相違があるのではないか。」 大体以上のように武田氏は云われている。 一つの小・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
出典:青空文庫