・・・現在、感じている日本文学のもの足りなさは、それが未熟だからでも、稚拙だからでもなく、それどころか、どの作品も趣向はそれぞれにこらしてあって、手綺麗に色もとりどりであるけれども、そのあまりにも多くが、駅の売店につられている派手なセロファン人形・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ 今日の図書館員の目から見れば、此那大ざっぱな、まとまりのない目録は稚拙の極で、小規模の箇人蒐集をまとめる役にも立たないように思えるに違いない。けれども、私にこの部門の配列の順序その他は、何となく分業以前の人間の暖さ、正直さ、真実さのほ・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・あれほど大きい組織的な軍事行動をやっているくせに、その事件が愛らしい息長帯姫の物語として語り残されたほどに、この民族の想像力はなお稚拙であった。が、たとい稚拙であるにもしろ、その想像力が、一方でわが国の古い神話や建国伝説などを形成しつつあっ・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫