・・・流行の説話体というものは、或る独特な作家的稟質にとってだけ、真にそのひとの云おうとすることを云わしめるもので、多くの他の気質の作家にとっては、必要でもない身のくねりや、言葉の誇張された抑揚や聴きてを退屈させない芸当やらを教え込むもので、意味・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・ 作家としての発展の段階は生涯のうちに幾つ自覚されるものであるか、それは人によって、又その人の稟質の豊富さによるのであろうが、私などはこの頃になって小説というものにつき、そのこしらえものと、そうでないものとの差別がはっきりして来たようで・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・猛烈にかみ合い、理想の敗北が箇人的生涯の悲惨として現れるかということを一般人生の姿として冷たく、傍観的に観察している態度等は、この作者がロマンチストとしての抒情性と社会に対する自然主義的立場とを作家的稟質、社会所属の本質、過去の全閲歴の蓄積・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・との間に推移したのであった。稟質的には相当激しいものを持ちつつどちらかというと主観的な題材やテーマの作品を書いている作者は、この「小さき歩み」で昔とはずいぶん違った広い世界へ踏み出している。扱われている感情も複雑で、客観的な作者の観察、洞察・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・等と比べると農村生活に深い根をもつ節独特の稟質がうかがわれるのである。 写生文派は写実主義文学にうつり、今日現実を更にその有機的諸関係につき入って描こうとする現実主義が問題となって来ている。 長塚節の「土」は農民作家とその課題として・・・ 宮本百合子 「「土」と当時の写実文学」
・・・間性というものについての理解、民族の文学に対する理解、それらの重要な諸点は、これまでのプロレタリア文学理論の中で勿論基本的に健全にとりあげられてはいたが、個々の作家の生活感情の中へまで、新時代の作家的稟質となってとけこんでいるとはいえない実・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
・・・あるままを素直に感受する敏感さと、驚きもよろこびも疑問をも活々と感じ得る慧智と、人間の文化の今日までの成果に立っての強靭なる判断力、推理力が、益々作家に必要な稟質となって来ている。このような点では、科学の発展のヒントをつかむ人間精神の活動の・・・ 宮本百合子 「文学の流れ」
・・・ そもそも、作家としての、横光氏は、その文学的出発の当初から、現実の或る面に対しては敏感であったが、その敏感さの稟質は、一箇の芸術家として現実を全面から丸彫にしてやろうという情熱において現れず、常に、現実の一面にぶつかってそこから撥ね返・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・なものを詩人的稟質と貴方は書いておられますが、どうかしら。こういうものは藤村が自身の教養と生活の道とを、所謂心も軽く身も軽き学生生活でのみ得ず、自力で自身の肉体でものにして来ているところからも生じているのではないでしょうかしら。 村山の・・・ 宮本百合子 「「夜明け前」についての私信」
出典:青空文庫