・・・いや、鬼というものは元来我々人間よりも享楽的に出来上った種族らしい。瘤取りの話に出て来る鬼は一晩中踊りを踊っている。一寸法師の桃太郎は犬猿雉の三匹の忠義者を召し抱えた故、鬼が島へ征伐に来たのだ。」「ではそのお三かたをお召し抱えなすったの・・・ 芥川竜之介 「桃太郎」
・・・ このことは、古今、東西、国を異にし、また種族を異にしても相違のある筈はないでありましょう。こゝに思い至るたびに、私は、戦争ということが、頭に浮び、心が暗くなるのを覚えます。 戦争! それは、決して空想でない。しかも、いまの少年達に・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・なぜなら、彼等は、自ら生存し、自ら楽しみ、自ら種族を遺す自由を有しているからです。 曾て、彼等の祖先によって、この地球が征服されていた時代があったことを考えなければならぬ。そして、また気候の変化したる幾万年の後に至るも果して、今日の如く・・・ 小川未明 「天を怖れよ」
芸術家というものは、つくづく困った種族である。鳥籠一つを、必死にかかえて、うろうろしている。その鳥籠を取りあげられたら、彼は舌を噛んで死ぬだろう。なるべくなら、取りあげないで、ほしいのである。 誰だって、それは、考えて・・・ 太宰治 「一燈」
・・・らであったが、どうも日本酒はからくて臭くて、小さい盃でチビチビ飲むのにさえ大いなる難儀を覚え、キュラソオ、ペパミント、ポオトワインなどのグラスを気取った手つきで口もとへ持って行って、少しくなめるという種族の男で、そうして日本酒のお銚子を並べ・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・喫茶店なるものにはいってみると、そこにはたいていキザに気取った色の白いやさ男がいて、兄は小声で、あれは新進作家の何の誰だ、と私に教え、私はなんてまあ浅墓な軽薄そうな男だろうと呆れ、つくづく芸術家という種族の人間を嫌悪した。 私は上品な芸・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・ そのような、私のような人間は、夢想家と呼ばれ、あまいだらしない種族のものとして多くの人の嘲笑と軽蔑の的にされるようであるが、その笑っているひとに、しかし、笑っているそのお前も、私にとっては夢と同じさ、と言ったら、そのひとは、どんな顔を・・・ 太宰治 「フォスフォレッスセンス」
・・・私たちの母の説に依れば、百年ほど前から既に世界は、男性衰微の時代にはいっているのだそうでして、肉体的にも精神的にも、男性の疲労がはじまり、もう何をやっても、ろくな仕事が出来ない劣等の種族になりつつあるのだそうで、これからはすべて男性の仕事は・・・ 太宰治 「女神」
・・・にもこれに似た唄合戦の記事があるところを見ると、これに類似の風俗はエスキモー種族の間にかなり広く行われているのではないかと思う。我邦の昔の「歌垣」の習俗の真相は伝わっていないが、もしかすると、これと一縷の縁を曳いているのではないかという空想・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・同じように、トナカイの群れを養う土人の家族が映写されても、それがカラフトのおおよそどのへんに住むなんという種族の土人だかまるきりわからないから、せっかくの印象を頭の中のどの戸棚にしまってよいか全く戸まどいをさせられる。 材木の切り出し作・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
出典:青空文庫