・・・お前さんの好きな作者の小説もお前さんが読んではなんにもならないのだが、わたしが読めばあの人に可哀がって貰う種を目付ける種本になるのだわ。幾らお前さんのお父っさんがエスキルといったって、エスキルという名を付ける坊主はお前さんには出来ないわ。な・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・それらについて云わば種本ともしていたのだが、このごろは、そういう便宜が次第に失われて来て、大掴みに云えば誰も彼もが大体に同じようなものを読むしかなくなっている。これまでは非常に個人的な系統と統一とをもって形づくられていた一人の作家・評論家の・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・ 日本の市民の経済力と文化の低さとは、現代でも諸方面に所謂種本の貴重性をのこしている。フランスの文化運動の全貌に関する一般文化人の常識は、謂わば種本の数の尠なさに比例した狭さであったから、「行動のヒューマニズム」に就ても、上述のような紹・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫