・・・いや、むしろ積極的に、彼女が密かに抱いていた希望、――たといいかにはかなくとも、やはり希望には違いない、万一を期する心もちを打ち砕いたのも同様だった。男は道人がほのめかせたように、実際生きていないのであろうか? そう云えば彼女が住んでいた町・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・既にあきらめに住すと云う、積極的に強からざるは弁ずるを待たず。久保田君の芸術は久保田君の生活と共にこの特色を示すものと云うべし。久保田君の主人公は常に道徳的薄明りに住する閭巷無名の男女なり。是等の男女はチエホフの作中にも屡その面を現せども、・・・ 芥川竜之介 「久保田万太郎氏」
・・・と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。 下人は、大きな嚔をして、それから、大儀そうに立上った。夕冷えのする京都は、もう火桶が欲しいほどの寒さである。風は門の柱と柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。丹塗の柱・・・ 芥川竜之介 「羅生門」
・・・時勢が積極的となり、事実また、ほんとうに、社会のためにも働いているような人々が、五十以上の人にも多いのを知ると、昔の人の言った、この厭世的な見解は誤っていたということを知るのであります。そして、自分も、これからだと思い、また、真剣に、しなけ・・・ 小川未明 「机前に空しく過ぐ」
・・・そして、積極的に彼等がいかなる、境遇に置かれつゝあるかと認識することによって、その中の可能なるものより、速かに実現されんことを希うのである。 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・しからざるかぎり、たとえ、積極的には、間違ったことを伝えなくとも、そこに、喜びがなく、たゞあるものが、怠屈ばかりであったら、それは、何も与えなかったことになるばかりでなく、徒らに、読者をして、焦燥に悶えしめるものです。 事務的に書かれた・・・ 小川未明 「読むうちに思ったこと」
・・・ 不思議なもので一度、良心の力を失なうと今度は反対に積極的に、不正なこと、思いがけぬ大罪を成るべく為し遂んと務めるものらしい。 自分はそっとこの革包を私宅の横に積である材木の間に、しかも巧に隠匿して、紙幣の一束を懐中して素知らぬ顔を・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・すなわち人間のあらゆる積極的な意欲はことごとく、道徳の実質であって道徳律はその意欲そのものを褒貶するのでなく、その意欲間の普遍妥当なる関係をきめるのである。しかしながらこの意欲そのもの、すなわち生の実質にかかわりなく純粋に形式的に行為を決定・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・日蓮はここにおいて決するところあり、自ら進んで、積極的に十一通の檄文を書いて、幕府の要路及び代表的宗教家に送って、正々堂々と、公庁が対決的討論をなさんことを申しいどんだ。 これは憂国の至情黙視しておられなかったのであるが、また彼の性格の・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・しかしながら現代の男女としてはかような情緒にほだされていわゆる濡れ場めいた感情過多の陥穽に陥るようなことはその気稟からも主義からも排斥すべきであって、もっと積極的に公共の建設的動機と知性とをもって明るく賢く快活に生きるべきであろう。 さ・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
出典:青空文庫