・・・ それはまことに尤もなのだし、本人として外側から及ぼすどんな力も願ってはいなかったのだけれども、それでも先生の聰明な如才なさのうちに閃くように自身の未来を空白として感じとることは苦しかった。もしそれでいいのなら、こんなにもがきはしないの・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・「習俗記」「葉山汲子」「新しき塩」「未練」「空白」そのほかいくつかの小説をこの数日の間に読んだのであるが、結局私の心にはその一作一作についての感想を語る興味が生ぜず、むしろ総括的な一つの疑問がのこされた。何故なら、以上の諸作品が、それぞれの・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・どうぞ お前の愉快な 牧笛でわが 胸を浄めて呉れこの寂しい微笑を忘れさせて呉れ一生の恋 わが愛わが愛はあわれな〔五字分空白〕となる。憤りもし得ず、わが痴かな恋人の面影も 忘れ得ず身を喰う苦しさがしんしんと魂に・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
・・・ 一八六一年に書かれたこの『母権論』の功績は、著者バッハオーフェンが自身の神秘的な観念に制約されつつも、熱心にギリシア、ローマ等の古典文学を跋渉し、章句を引用し、彼以前には、全く空白に等しかった先史の分野に、一夫一婦制以前の社会が単に無・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
・・・ 〔二行分空白〕と云う歌を見つめながらうれしい心をしみじみと味わって居た。 後室の披露ははじまった、男君は誰よりも一番女君の歌のよいようにと祈って居た。自ぼれの強い女がこれならと自信をもって居た歌が一も二もなくとりすてられた・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・が官製翻訳され、文化上の偉い婦人作家といえば紫式部にきまったもののように扱われていたということに、却って、日本の文化がどんなに創造力を失い、圧しつけられ、文化史としての新しい頁を空白にされていたかという、重大な文化上の問題があらわれているの・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・その言葉と言葉との間に、〔二字分空白〕として立ち迷って居る響の影である。捕えれば消えも仕そうな陰影と陰影との限り無い錯綜である。その錯綜の産む気分である。そして、その気分は嘗て洛中に住む一人の都人であった、彼の誰だか分らない「私」の胸を満た・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・――明日お医者のところへ行って診て貰ってね、今週のうちに貰えるでしょう――私の方がのこっちゃったわね――ニチェヴォー、直きよくなりますよ、 分娩までに二ヵ月、分娩後二ヵ月の休暇を〔約三字分空白〕留の援助金とともに貰うのだ。 ・・・ 宮本百合子 「無題(七)」
・・・ 建築家の娘であり、作家であり、人間の幸福を切望する一人の婦人である私は、歴史のあたらしい発展者である〔九字分空白〕の道途に心からなる拍手をお送りいたします。 宮本百合子 「よろこびの挨拶」
・・・ 若い真面目な女のひとが、真実今日の生活に何かの空虚感を感じたとしたら、それは、急速に、努力的に充填されなければならない個人的・社会的生活の空白に対する警笛として、寧ろ動的に、推進力として自覚されなければならないのだと思う。 これを・・・ 宮本百合子 「私たちの社会生物学」
出典:青空文庫