・・・二人の意見は完全に一致して、私たちは時間の空費をまぬがれることが出来たのである。 青春も若さも大急ぎで私から去ってしまったらしい、といって、私は非常に悲観しているわけではない。今年の春、私は若い将校が長い剣を釣って、若い女性と肩を並べな・・・ 織田作之助 「髪」
・・・大概の教師はいろんな下らない問題を生徒にしかけて時間を空費している。生徒が知らない事を無理に聞いている。本当の疑問のしかけ方は、相手が知っているか、あるいは知り得る事を聞き出す事でなければならない。それで、こういう罪過の行われるところでは大・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・かしない日は空費されたもののように思われたのである。もちろん若いころには免れ難い卑近な名誉心や功名心も多分に随伴していたことに疑いはないが、そのほかに全く純粋な「創作の歓喜」が生理的にはあまり強くもないからだを緊張させていたように思われる。・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・四時から再び始まる講義までの二三時間を下宿に帰ろうとすれば電車で空費する時間が大部分になるので、ほど近いいろいろの美術館をたんねんに見物したり、旧ベルリンの古めかしい街区のことさらに陋巷を求めて彷徨したり、ティアガルテンの木立ちを縫うてみた・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・そうしたためにもしこの僅少な時間を空費したとしても、乗車してからの数十分間にからだを休息させ、こういう時でなければちょっと読む機会のないような種類の読み物を十ページでも読むとすれば、差し引きして、どうしてもこのほうが利益であるとしか思われな・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・われわれはこの事を忘れて果てのない議論に時間を空費している。 八「唐土にても墨張とて学問にあまり精を入れしゆえにつりし蚊帳が油煙にてまっ黒になりしという故事に引きくらべて文盲儒者の不性に身持ちをして人に誇るものあり。いか・・・ 寺田寅彦 「人の言葉――自分の言葉」
出典:青空文庫