・・・それらの主義が発明された当初の真実を失い、まるで、この世界の新現実と遊離して空転しているようにしか思われないのである。 新現実。 まったく新しい現実。ああ、これをもっともっと高く強く言いたい! そこから逃げ出してはだめである。ご・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・日本人というのは、外国へ行くと足が浮いて、その生活が空転するという宿命を持っているのであろうか。内地にいる時と、外地にいる時と、自分ながら、まるでもう人が違っているような気がして、われとわが股を抓ってみたくなるような思いだ。 慶四郎・・・ 太宰治 「雀」
・・・あの不健康な、と言っていいくらいの奇妙に空転したプライドの中に君たちが平気でいつも住んでいるものとしたら、それは或いは、あのイエスに、「汝らは白く塗りたる墓に似たり、外は美しく見ゆれども、云々」と言われても仕方がないのではないかと思われる。・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・意識しないほど無智な今日の権力に対して、憤りをもって頭を高くもたげている伊藤整が、朝日に発表した文章の冒頭の数行にこめられている真実を、わたしは、この作者が近代的な小説の成立にふれてかいている「歯車の空転」に補足したいと思う。「既存の社会通・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・ 今日の若い娘が、もしああもこうも考える力をもっていると云うならば、その考える力を輾転反側の動力として空転りさせないで、考える力をあつめて、生涯を貫く一つの何かの力として身につけなければ意味ないと思う。娘時代の絶えず求める心が描いている・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
出典:青空文庫