・・・地球も自転しながら進むのだからつまり空間に螺旋しているのだよ。太陽も自転している以上はたしかに螺旋して進んでいるのだよ。月も螺転しているのサ。星もその通りサ。螺旋螺転なんというのは好い新熟字だろう。人間のつむじを見ればこれも螺旋法で毛が出る・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・ 運動場は扇形に開いた九つのコンクリートの壁がつッ立ッていて、八つの空間を作っている。その中に一人ずつ入って、走り廻わる。――それを丁度扇の要に当る所に一段と高い台があって、其処に看守が陣取り、皆を一眼に見下している。 俺だちの・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・たったさっきまで、その名誉のために一命を賭したのでありながら、今はその名誉を有している生活と云うものが、そこに住う事も、そこで呼吸をする事も出来ぬ、雰囲気の無い空間になったように、どこへか押し除けられてしまったように思われるらしい。丁度死ん・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ これに反してアインシュタインの取扱った対象は抽象された時と空間であって、使った道具は数学である。すべてが論理的に明瞭なものであるにかかわらず、使っている「国語」が世人に親しくないために、その国語に熟しない人には容易に食い付けない。それ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ たとえば、スクリーンの映像では、その空間的位置がちゃんと決定されているのに、音響のほうは、聞いただけでその音源の位置を決定する事ができない。この事がいろいろ問題になっているが、文楽でこの問題はつとに解決されている。すなわち、たとえば、・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・そうして更に無数の囁が騒然として空間に満ちる。電光が針金の如き白熱の一曲線を空際に閃かすと共に雷鳴は一大破壊の音響を齎して凡ての生物を震撼する。穹窿の如き蒼天は一大玻璃器である。熾烈な日光が之を熱して更に熱する時、冷却せる雨水の注射に因って・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・この広がりを空間と申します。つまりはスペースと云うものがあって、万物はその中に、各、ある席を占めている。次に今日の演説は一時から始まります。そうしていつ終るか分りませんが、まあいつか終るでしょう。大概は日が暮れる前に終る事と思います。私がこ・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・然るに十九世紀に入っては、ヨーロッパという一つの歴史的世界に於てドイツとフランスとが対立したが、更に進んで窮極する所、全世界的空間に於て、ドイツとイギリスとの二大勢力が対立するに至った。これが第一次世界大戦の原因である。十九世紀は国家的自覚・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・対象認識の立場から出立する人は、自己そのものの存在ということも、時間空間の形式に当嵌めて対象的に考える。心理的自己としては、我々の自己も爾考えることができる。しかしそれは考えられた自己であって、考える自己ではない。何人の自己でもあり得る自己・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・彼の画面に対して、あんなにも透視的の奥行きをあたへたり、適度の明暗を反映させたり、よつて以てそれを空間から切りぬき、一つの落付きある完成の気分をそへる額縁に対して、どんな画家も無関心でゐることができないだらう。同じやうに我等の書物に於ける装・・・ 萩原朔太郎 「装幀の意義」
出典:青空文庫