国文学というものは、云わばこれから本当の生きた研究がされるのではないだろうか。旧来の国文学は専門家の間にどこまでも鑑賞、故実穿鑿の態度で持ち来されていて、推移する文化の科学的な足どりとは自身の研究の方法を一致させていなかっ・・・ 宮本百合子 「若い世代のための日本古典研究」
・・・二羽の鷹はどういう手ぬかりで鷹匠衆の手を離れたか、どうして目に見えぬ獲物を追うように、井戸の中に飛び込んだか知らぬが、それを穿鑿しようなどと思うものは一人もない。鷹は殿様のご寵愛なされたもので、それが荼の当日に、しかもお荼所の岫雲院の井戸に・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・そんな風に穿鑿をすると同時に、老伯が素食をするのは、土地で好い牛肉が得られないからだと、何十年と継続している伯の原始的生活をも、猜疑の目を以て視る。 Dostojewski は「罪と償」で、社会に何の役にも立たない慾ばり婆々あに金を持た・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・そんな風に穿鑿して見ると、むしろ頭からその考えている事を言わずに置くのが好いかも知れないのです。 しかし何と云われたって、云われついでだから云いましょう。私は田山君のように旨くないと云われても、実際どうでもない。田山君も、正宗君も、島崎・・・ 森鴎外 「Resignation の説」
・・・「心愚痴にして女に似たる故、人を猜み、富める者を好み、諂へるを愛し、物ごと無穿鑿に、分別なく、無慈悲にして心至らねば、人を見しり給はず」というような、心の剛さを欠いた、道義的性格の弱い人物である。したがって彼は、義理にしたがって動くのではな・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫