・・・自分に窮乏が迫らない為、無邪気にも余り無知識であった人々。又は、目下の露国社会状態に反感を持ち、些の愛も感じられない人々。どうぞ、時々外国の新聞や雑誌に現れる、彼等の恐ろしい飢餓の有様を見て下さい。 あの痩せ衰え骸骨のようになったロシア・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・ なるほど、村についた最初から彼プロレタリア作家は、K部落の窮乏がどんな外見をとって現れているかということは、こまかに書きとめている。外から部落へ入って来たものとして観ている。しかしそれらさまざまの外見をとって起る事件が、部落民の世界観・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・この窮乏のうちにイエニーは長男の母となった。 ブルッセルで、エンゲルスがマルクス家の隣に住んで共に働くようになった。エンゲルスと共に終生変らぬマルクス夫妻の仲間となったワイデマイヤーとの交際もはじまった。イエニーはすべての友人たちのよい・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・そういう窮乏状態であった。私共は、その時分謂わば財布も一つ、心も一つという工合で、必死の生活をやっていたのであったが、稲子さんは、この布団を背負って行ったということを、そのことがあって既に何日か経った後、ごくさらりと、何かの話の間に交えて私・・・ 宮本百合子 「窪川稲子のこと」
・・・ケーテ・コルヴィッツの画業が、ナチスのものでありえなかったということは、とりもなおさず、彼女の生涯と芸術が戦争に反対し、人民の窮乏に反対する世界のすべての人々の宝であることを証明したのであった。 新海氏の伝記の冒頭に晩年のケーテ・コルヴ・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・出版されるのであって、真に研究されるのでないところに、文学の窮乏があるのでしょう。ドストイエフスキーなどがよみ直されるのみならず、人間の神性とか獣性とかいう問題にからんで云々され、不安の問題が上程され、その深めるための文学的努力はされずに舟・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・「戦時中あれほどの犠牲にたえた婦人の皆さん、どうぞあのときを想い出して窮乏に耐えて下さい。」しかし、あのときを思い出せということは戦争で殺された夫と兄弟、父親、息子を想い出すことです。忍耐深い日本の女性の努力と涙でしのいだ年月は、その結果と・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・資本主義の必然的な矛盾はインテリゲンチアをも経済的に窮乏におとし入れ、その広い部分が労働者化の過程をたどっているし、同時に、古い文化の涸渇と腐敗を見透し、自身の生存のためにも新しい生活と文化との建設の必要をますます自身の問題として感じるよう・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・ダアウィンの境遇は謂わばよい意味でのお坊ちゃん風な色調がつよいのに反して、ファブルはコルシカ辺に教師をしたりして貧困と窮乏と闘いつつ、自分の科学への道を切りひらいて行っている。イギリス人とフランス人、特にドウデエなどがまざまざと特徴づけてい・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・同氏は二・二六事件の本質を、陸軍内部の国体原理主義者――皇道派と、人民覇道派――統制派との闘争とし、敗北した二・二六事件の本質を、労働者農民の窮乏に痛憤した青年将校の蹶起、侵略戦争に反対し、陸軍内の閥と幕僚を排撃して、陸軍の自由を愛好する分・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
出典:青空文庫