・・・娘の気質の相異を理解しながら、読者は次第に北国へ向い、やがて峯子に出会ってA村に入ると、そこには、貧農の息子でのちに急進的に行動する清司、動揺する地方の人道主義的インテリゲンチアである小学教師の木村、窮乏による放火犯の息子であり、A村での農・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
・・・然し、寅公が六年も辛棒した揚句に、折角辛苦した土地をすてて故郷へかえらねばならなかった程の濃厚な窮乏の気分が十分出ていない。一応とりあげられている、穀物の安価、馬を熊にとられた事件等だけでは読者に北海道へ移住した農民の深刻などたん場の有様が・・・ 宮本百合子 「小説の選を終えて」
・・・ 支那古来の聖人たちは、いつも強権富貴なる野蛮と、無智窮乏の野蛮との間に立って彼等の叫びをあげてきた。「男女七歳にして席を同じゅうせず」しかし、その社会の一方に全く性欲のために人造された「盲妹」たちが存在した。娘に目があいてるからこそ客・・・ 宮本百合子 「書簡箋」
・・・農村の窮乏の資本主義による経済的背景、階級としての農民などという認識は、どこにもない。つまり、断然過去の作品となったものだ。 だが、現在の自分とすると、この作品にある感じがつながっている。その小説のおしまいに、子供の作者は叫んでいる。・・・ 宮本百合子 「「処女作」より前の処女作」
・・・この事実を、東北地方の窮乏を現実の背景として見て、私は一般読者の関心をよびおこしたく感じたのであった。『文学評論』の新人座談会の記事は二様三様の意味をふくんで非常に興味あるものであった。今日新しくプロレタリア文学の活動を開始した有能な人・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・シーモノフの年代の作家たちは、辛苦にたいし、窮乏と危険とにたいして耐える自信は身につけた。資本主義社会というものの性質も、わかっていると思われている。けれども、ニューヨークの昼と夜とのあらゆる生活の表裏は、けっしてけっして彼の英訳された「昼・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ 工場で十三時間の労働をしている大衆にとって、また、山ゴボーの干葉を辛うじて食べて娘を女郎に売りつつある窮乏農民にとって、この「紋章」は今日何のかかわりがあるであろうか。そういう感想は全く自然に起るし、いまさらびっくりするほどインテ・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・年齢と経済力とに守られて、若い幾多の才能を殺した戦争の恐怖からある程度遠のいて暮せたこの作家が、それらの恐怖、それらの惨禍、それらの窮乏にかかわりない世界で、かかわりない人生断面をとり扱った作品が、ともかく日本で治安維持法が解かれた直後のジ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・更にパリへ勉学に出る前後の窮乏。そして出てから、キュリーとのめぐり会い、その後の妻・母・科学者としての手いっぱいな彼女の生活の明け暮れ。そこを貫いて彼女に科学上の大きい業績をのこさせたもの、そこに私たちはこの世の中における並々ならぬものを見・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・農民、労働者の間に個性の自由や恋愛ののびのびした開花は無智と窮乏によって、貴族と小市民との間にあっては封建的なしきたりで、それが凍らされていた。 個性の解放を欲求した面でツルゲーネフは全く生々しい若いロシアの要求を表現したのであるが、そ・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
出典:青空文庫