・・・わたくしも立会人を連れて参りませんから、あなたもお連れにならないように希望いたします。序でながら申しますが、この事件に就いて、前以て問題の男に打明ける必要は無いと信じます。その男にはわたくしが好い加減な事を申して、今明日の間、遠方に参ってい・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ やっているうちに立ち会い役人の目を盗んですりかえようと思ったのだというのは最も常識的な解釈で、それを否定する事はむつかしい。しかしただそれだけであったかどうかが問題である。 うそもしょっちゅうついているとおしまいには自分でもそれを・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・ 安岡は故郷のあらゆる医師の立ち会い診断でも病名が判然しなかった。臨終の枕頭の親友に彼は言った。「僕の病源は僕だけが知っている」 こう言って、切れ切れな言葉で彼は屍を食うのを見た一場を物語った。そして忌まわしい世に別れを告げてし・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・ゆえにこの時に出席する官員ならびに年寄は、試業のことと、立会のことと両様を兼ぬるなり。 小学の科を五等に分ち、吟味を経て等に登り、五等の科を終る者は中学校に入るの法なれども、学校の起立いまだ久しからざれば、中学に入る者も多からず。ただし・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・ 政治というと、何か議論めかして、各政党の立会演説をするのが政治のようにおもわれますが、そうではなく、私たちの毎日の生活のなかに問題があるのであって、その問題を解決してゆくのが、政治なのであります。 私は社会のために、廉い本を作りた・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・祖父は井上円了の心霊学に反対して立会演説などをやったらしいが、祖父の留守の夜の茶の間では、祖母が三味線をひいて「こっくりさん」を踊らしたりした。夫婦生活としてみれば、血の気が多く生れついた美人の祖母にとって、学者で病弱で、しかも努力家であっ・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・ラジオ放送、演説でくりかえすばかりでなく、茨城県の或るところでは、元校長の某氏が立候補して、立会演説があった。国民学校である会場へゆくと、各教室からワラワラと馳け出して来た児童らが、両手をメガフォンにして「ゴジ!」「ゴージイ!」と叫んだ実例・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
出典:青空文庫