・・・フレンチが一昨日も昨日も感じていて、友達にも話し、妻にも話した、死刑の立会をするという、自慢の得意の情がまた萌す。なんだかこう、神聖なる刑罰其物のような、ある特殊の物、強大なる物、儼乎として動かざる物が、実際に我身の内に宿ってでもいるような・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・が、いずれにも、しかも、中にも恐縮をしましたのは、汽車の厄に逢った一人として、駅員、殊に駅長さんの御立会になった事でありました。大正十年四月 泉鏡花 「雪霊続記」
・・・わたくしも立会人を連れて参りませんから、あなたもお連にならないように希望いたします。ついでながら申しますが、この事件について、前以て問題の男に打明ける必要はないと信じます。その男にはわたくしが好い加減な事を申して、今明日の間遠方に参っていさ・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・ 印度人は席へ下りて立会人を物色している。一人の男が腕をつかまれたまま、危う気な羞笑をしていた。その男はとうとう舞台へ連れてゆかれた。 髪の毛を前へおろして、糊の寝た浴衣を着、暑いのに黒足袋を穿いていた。にこにこして立っているのを、・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・子供衆に遺して行った多くの和漢の書籍は、親戚の立会の上で、後仕末のために糴売に附せられた。 桜井先生の長い立派な鬚は目立って白くなった。毎日、高瀬は塾の方で、深い雪の積って行くような先生の鬚を眺めては、また家へ帰って来た。生命拾いをした・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・お婿さんと立会人とで球を突いているというわけさ。婚礼の晩がこんな風では、行末どうなるだろうと思ったの。よくまあ、お婿さんになって、その晩に球なんぞが突けたことね。お嫁さんもお嫁さんで、よくまあ、滑稽雑誌なんぞが見ていられたことね。お嫁さんの・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・わたくしも立会人を連れて参りませんから、あなたもお連れにならないように希望いたします。序でながら申しますが、この事件に就いて、前以て問題の男に打明ける必要は無いと信じます。その男にはわたくしが好い加減な事を申して、今明日の間、遠方に参ってい・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ゆえにこの時に出席する官員ならびに年寄は、試業のことと、立会のことと両様を兼ぬるなり。 小学の科を五等に分ち、吟味を経て等に登り、五等の科を終る者は中学校に入るの法なれども、学校の起立いまだ久しからざれば、中学に入る者も多からず。ただし・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・ 政治というと、何か議論めかして、各政党の立会演説をするのが政治のようにおもわれますが、そうではなく、私たちの毎日の生活のなかに問題があるのであって、その問題を解決してゆくのが、政治なのであります。 私は社会のために、廉い本を作りた・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・祖父は井上円了の心霊学に反対して立会演説などをやったらしいが、祖父の留守の夜の茶の間では、祖母が三味線をひいて「こっくりさん」を踊らしたりした。夫婦生活としてみれば、血の気が多く生れついた美人の祖母にとって、学者で病弱で、しかも努力家であっ・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
出典:青空文庫