・・・ 長い間、児童等の生活は、その責任と義務を、家庭と学校に委して、社会は、深く立入ることなくして過ぎて来ました。就中、家庭において、支配する者の意志と感情が、直接支配される者の上に向けられぬはずはなかったのです。昔から、手の下の罪人という・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・ 今里なら中央局から市電で一時間で行けるし、電報でわざわざ呼び寄せなくともと思ったが、しかし、それを訊くのは余りに立ち入ることになるので新吉は黙っていると、女は、「――ウナで打っているんですけど、市内で七時間も掛ってますから、間に合・・・ 織田作之助 「郷愁」
・・・については、立入る必要はあるまい。第四章 日露戦争に関連して ─花袋の「一兵卒」、忠温の「肉弾」、龍之介の「将軍」 日清戦争当時のブルジョアジーは、既に解放される階級ではなく、支配する階級、抑圧す・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・ しかし、結局、文楽や俳諧のようなものは、西洋人には立ち入ることのできない別の世界の宝石であろう。そうして、西洋の芸術理論家は、こういうものの存在を拒絶した城郭にたてこもって、その城郭の中だけに通用する芸術論を構成し祖述し、それが東洋に・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・しかしこれらの重要な点にもここでは立ち入るべき余裕もなく、またそれはおそらく自分の任でもないから、全然省略して触れないことにする。これは遺憾ながらやむを得ない次第である。これについてはベーロ・ボラージュの「映画の精神」を読むことをすすめたい・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・しかしこの疑問以上に立ち入る事は科学者の領域以外に踏み出すと思う。 こんな事を書いて公にしようというについて一つ考えなければならぬ事がある。すなわちかくのごとき漠然たる議論を並べた結果、一部の読者には誤解を生じまた一部の学者からは独断の・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・その周囲の芝生に立ち入るなと書いた明白な立て札はあるが、事実は子供も大供も中供もやはり芝生に立ち入って水の面をのぞかなければ気が済まないのである。これもたしかに設計が悪いと言われなければならないのがいわゆる時代の推移であろう。二十年前だった・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・要は唯其人の内部に立入ることを為さずして度外に捨置き、事情の許す限り之を近づけざるに在るのみ。一 夫妻同居して妻たる者が夫に対して誠を尽す可きは言うまでもなき事にして、両者一心同体、共に苦楽を与にするの契約は、生命を賭して背く可らずと雖・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・た、あるいは活溌軽躁に流るる等にて、これを見て堪え難きは、医師が患者の劇痛を見てこれを救わんとするの情に異ならざるべしといえども、これを救うの術は、ただ政治上の方略に止まるべきのみにして、教育の範囲に立入るべからず。すなわち農工商等の事を奨・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・わたくしはいろいろ話しかけて見ましたが、ロザーロはどうしてもかなしそうで一言か二言しか返事しませんので、わたくしはどうしてももっと立ち入ってファゼーロと二人のことに立ち入ることができませんでした。そしてこの前山羊をつかまえた所まで来ますと、・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
出典:青空文庫