・・・ そう思って店で立話している人々の表情も今日の世相の中に汲みとりながら、ふっと視線をうつしたら、その隣りは炭屋であった。どぶ板と店のガラス戸との間に無理して体を平らにして爪立っている人のように例の名誉戦死者某々殿の立札が立っている。米屋・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・ はる子に優しい感銘を与えたこの立ち話しのみならず、千鶴子はいつも帰りを急ぐ人であった。彼女は夜が好きで自分の勉強は夜中するのだそうであった。弟は昼間勤めに出る。朝八時までに食事の仕度をしてやり、それから昼前後までが彼女の安眠の時間・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・ひろ子は、心細くなってリアカーを曳いた男と立ち話をしていたエプロン姿のお神さんに、電気熔接学校と云って訊いてみた。そこのガードをくぐって左へ出ると、ロータリーと交番があって、そこを又左へとおそわった。その辺はすっかりやけ原で、左手にいくらか・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・をつくろったり、立ち話しをしたりして居る。 いかにもお正月らしい。 正月の海辺は今年始めて見たのだけれ共、東京の町中等より眼先のかわった、単純な面白味がある。 漁師共の着て居るその「どてら」みたいなものと、船じるし、松飾りをした・・・ 宮本百合子 「冬の海」
・・・二人で往来へ出て、田村町の停留場のところでちょっと立ち話した。譲原さんは、やっと汗のおさまった顔をして、今度は放送の日までに一遍わたしのところへ来て、打合せをしておこうという話になった。 うちへ来てくれた日は、寒い日だったけれども、譲原・・・ 宮本百合子 「譲原昌子さんについて」
出典:青空文庫