出典:青空文庫
・・・いわば、竜頭蛇尾、たとえば千メートルの競争だったら、最初の二百メートルはむちゃくちゃに力を出しきって、あとはへこたれてしまうといった調子。そんな訳で、奉公したては、旦那が感心するくらい忠実に働くのだが、少し飽きてくると、もういたたまれなくな・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・の韜晦の一語がひょいと顔を出さなければならぬ事態に立ちいたり、かれ日頃ご自慢の竜頭蛇尾の形に歪めて置いて筆を投げた、というようなふうである。私は、かれの歿したる直後に、この数行の文章に接し、はっと凝視し、再読、三読、さらに持ち直して見つめた・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・「もうおしまいか。竜頭蛇尾だね。そんな話なら、誉めなけりゃあ好かった。」 四 この時戸口で、足踏をして足駄の歯に附いた雪を落すような音がする。主人の飼っている Jean という大犬が吠えそうにして廃して、鼻をくん・・・ 森鴎外 「独身」