・・・修容正粛ほとんど端倪すべからざるものありしなり。されど一たび大磐石の根の覆るや、小石の転ぶがごときものにあらず。三昼夜麻畑の中に蟄伏して、一たびその身に会せんため、一粒の飯をだに口にせで、かえりて湿虫の餌となれる、意中の人の窮苦には、泰山と・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・ドリスが色々な思附きをして興を添えてくれる。ドリスが端倪すべからず、涸渇することのない生活の喜びを持っているのが、こんな時にも発揮せられる。この宴会に来たものは、永くその面白さを忘れずにいて、ポルジイが柄にない、気の利いた事をして、のん気に・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ もし物質間の引力が距離によらず同一であったり、あるいは距離の大なるほど大であったと仮定したら、天地万物の運動はすべて人間には端倪する事の出来ぬ渾沌たるものになるであろう。如何なる強度の望遠鏡でも窺う事の出来ぬような遠い天体の上に起る些・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・どんな範囲でかけるか、描けるために入用な準備はいろいろあろうが、それは鰻屋のたれ壺である。端倪すべからざる沈黙におかれている。 芸術家としての内部的発展をいうならば、画期的な作の描かれた思い出が語られている。 二十六歳に花ざかりを描・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
出典:青空文庫