・・・日頃拝みなれた、端厳微妙の御顔でございますが、それを見ると、不思議にもまた耳もとで、『その男の云う事を聞くがよい。』と、誰だか云うような気がしたそうでございます。そこで、娘はそれを観音様の御告だと、一図に思いこんでしまいましたげな。」「・・・ 芥川竜之介 「運」
・・・』女人を見、乳糜に飽かれた、端厳微妙の世尊の御姿が、目のあたりに拝まれるようではないか?」 俊寛様は楽しそうに、晩の御飯をおしまいになると、今度は涼しい竹縁の近くへ、円座を御移しになりながら、「では空腹が直ったら、都の便りでも聞かせ・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・法隆寺の壁画はそのゆたかさ、端厳さに人間らしい立派さがあふれていて、わたしたちの心のなかに親愛と尊敬をもって生きていた。あの壁画が感動的であるのは、画面の素晴らしさが、わたしたちに人間のもち得る美感の高さ、深さを、まざまざとした生命感で直感・・・ 宮本百合子 「国宝」
・・・ やがて我に還ると、私は、執拗にとう見、こう見、素晴らしい午後の風景を眺めなおしながら、一体どんな言葉でこの端厳さ、雄大な炎熱の美が表現されるだろうかと思い惑う。惑えば惑うほど、心は歓喜で一杯になる。 ――もう一つ、ここの特徴で・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・彼等は感歎し、讚美する。端厳微妙な顔面の表情や、腕、脚の霊活な線について。よき芸術にふれた歓喜を、彼等は各々多くの場合専門語で表現するに違いない。そう本ものの美術観賞家とも生れついていまい若者は、傍でそれ等テクニカル・タームの数々を耳に浚い・・・ 宮本百合子 「宝に食われる」
・・・百済王が始めて釈迦銅像を献じた時、それを見た我々の祖先の著明なる一人は、その「いまだかつて見ざる端厳なる相貌」に歓喜した。そうしてそれが仏教襲来の機縁であった。その後仏教の興隆とともにますます芸術的精練を加えた「偶像」が、いかにわれらの祖先・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫