・・・水軍の策戦は『三国志』の赤壁をソックリそのままに踏襲したので、里見の天海たる丶大や防禦使の大角まで引っ張り出して幕下でも勤まる端役を振り当てた下ごしらえは大掛りだが、肝腎の合戦は音音が仁田山晋六の船を燔いたのが一番壮烈で、数千の兵船を焼いた・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・第三には「端役の人物」で、大善でもない、大悪でもない、いわゆる平凡の人物でありますが、これらの三種の人物中、第一類の善良なる人物は、疑いも無く作者たる馬琴および当時の実社会の善良なる人物の胸中の人物であります。もとより人の胸中の人物でありま・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・映画には、俳優が第二義で監督次第でどうにでもなるという言明の真実さが証明されている。端役までがみんな生きてはたらいているから妙である。 最後の場面でおつたが取り落とした錦絵の相撲取りを見て急に昔の茂兵衛のアイデンティティーを思い出すとこ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・そうして端役に出る無表情でばかのような三人の門付け娘が非常に重大な「さびしおり」の効果をあげているようである。 男役のほうはどうもみんな芝居臭さが過ぎて「俳諧」をこわしているような気がする。どうして、もう少し自然に物事ができないものかと・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ この一座には立役者以外の端役になかなか芸のうまい人が多いようである。この一座に限らず芝居の面白味の半分は端役の力であることは誰でも知っているらしいが、しかし誰も端役のファンになって騒ぐ人はないようである。騒がれることなしに名人になりた・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・一つの役を客観的な芸術の価値として創造して行く困難さは容易なものではない、そのことは実に理解されます。一つの端役でさえ、真面目な俳優は一度より二度目の時と、役柄のつかみ方、端役としての必然性の理解の点で成長してゆきます。そういう苦心を感じる・・・ 宮本百合子 「一つの感想」
出典:青空文庫