・・・知性を否定して端的に啓示そのものを受けいれねばならぬ。それは書物ではできない。その意味においては、弁証法的神学者がいうように、聖書でさえも啓示を語った書ではあるが、啓示そのものではないのである。 かように書物と知性から離れて端的に神の啓・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・もっと端的にわれらの実行道徳を突き動かす力が欲しい、しかもその力は直下に心眼の底に徹するもので、同時に讃仰し羅拝するに十分な情味を有するものであって欲しい。私はこの事実をわれらの第一義欲または宗教欲の発動とも名づけよう。あるいはこんなことを・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・その頃の事情を最も端的に説明している一文が、いま私の手許にあるのでそれを紹介しよう。これは私の創作「虚構の春」のおしまいの部分に載っている手紙文であるが、もちろん虚構の手紙である。けれども事実に於いて大いに相違があっても、雰囲気に於いては、・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・一つ御説明を願いたい。端的に。ダダイズムとは結局、何を意味するか。お願いします。草田舎の国民学校訓導より。―― 私は返事を出した。 ――拝復。貴翰拝読いたしました。ひとにものを尋ねる時には、も少していねいな文章を書く事に致しましょう・・・ 太宰治 「新郎」
・・・ 生まれてはじめて見た人形芝居一夕のアドヴェンチュアのあとでのこれらの感想のくどくどしい言葉は、結局十歳の亀さんや、試写会における児童の端的で明晰なリマークに及ばざることはなはだ遠いようである。文楽や歌舞伎に精通した一部の読者の叱責ある・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・理屈なし説明なしに端的にすべての人の心を奪う種類のフィルムであり、活動映画というものの独自な領域を鮮明に主張したものである。絵ではもちろんのこと、いかなる言葉でもまた音楽でも、かくのごとき映画を説明することは不可能であろう。それにしてもこの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・中事故の始終の経過が実によく手にとるようにありありと推測されるようになって来て、事故の第一原因がほとんど的確に突き留められるようになり、従って将来、同様の原因から再び同様な事故を起こすことのないような端的な改良をすべての機体に加えることがで・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・ この日本的の涼しさを、最も端的に表現する文学はやはり俳句にしくものはない。詩形そのものからが涼しいのである。試みに座右の漱石句集から若干句を抜いてみる。顔にふるる芭蕉涼しや籐の寝椅子涼しさや蚊帳の中より和歌の浦水盤・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・分らないことは分らないと端的に表現し追求することで、人生に積極な何かをもたらす芸術の健全なみのりがあるだろうか。 人間生活と歴史とは抽象に在るものではないから、作家が作品を生んでゆく心情にしろ、現実ときりはなしては在り得ない。しんからの・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・「自意識と批評精神から来る重く苦しいものが流れていて、これが正に農業を営んでいる人の心の端的だろうと思わせられる」 次に目につくのは小学教員、工場内で職工として働いている人の歌であり、これらの人々の歌には歌材として第三者への間接性がある・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫