・・・ 何でも物が、あまり端的な売買関係にあると、全く人間的感興の欠けたものとなって仕舞う通り、「家」と云うものに対する我々の心持も、あまり、コムマアシャリズムに堕したくないものと思います。 家を建てさせる丈の金はある。さあ、と云って、商・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・人々が誠意をもって、少数者の利益のためにでっちあげられる戦争に反対を声明し、日本の人々をこめる世界の人民の平和を護ろうとするならば、こんにちの日本の現実において、もっとも発端的な人権に加えられているでっちあげを徹底的に排除しなければうそであ・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・詩は歌謡との結びつきで、文学の形態としても一番集団の感情、意志表示に便宜であり、その性質から実に端的に率直に、詩の社会的性格や詩の背後にある集団の表情、身振りが現れて来ている。琵琶歌は昔の支那の詩形によっているものであるが、今日、それは勇壮・・・ 宮本百合子 「ペンクラブのパリ大会」
・・・に私たち全人民が見切りをつけているかということの端的なあらわれであると思う。本当に、私たちにとって、これまでの政治は一つも用がなくなっているのである。 これまでの政治に用はない、と背を向けている二千万の婦人が、では、自分たちの毎日の辛苦・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・即ち形式的仮象から受け得た内的直感の感性的認識表徴で、官能的表徴は少くとも純粋客観からのみ触発された経験的外的直感のより端的な認識表徴であらねばならぬ。従って官能的表徴は外的直感が客観に対する関係に於て、より感性的に感覚的表徴より先行し直接・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・我々は端的に「人間」の心に迫って行かなくてはならぬ。しかしいまだ力に乏しい私の眼には、それがほとんど不可能に見える。深いものを見得るのはただ少数の人々に過ぎない。大多数の人々を共通に動かし得る物は、今の所、センチメンタリズムのほかにないだろ・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・また透明であればあるほどそこにガラスのあることが気づかれないと同様に、透明な表現もその表現の苦心とか巧みさとかを意識させず、ただ端的に表現されたものに直面せしめる。それに反して警抜な表現とか巧みさを感じさせる言い回しとかは、ちょうど色のつい・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
・・・ このことを端的に示しているのは肖像彫刻、肖像画の類である。芸術家は「人」を表現するのに「顔」だけに切り詰めることができる。我々は四肢胴体が欠けているなどということを全然感じないで、そこにその人全体を見るのである。しかるに顔を切り離した・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫