・・・最初にさされたのは、竹内でありました。「私が、病気でねていましたとき、お父さんは毎晩めしあがるお好きな酒もお飲みになりませんでした。そして、お母さんは、ご飯もあまりめしあがらず、夜もねむらずにまくらもとにすわって、氷まくらの氷がなくなれ・・・ 小川未明 「笑わなかった少年」
・・・ 内から戸が開くと、「竹内君は来てお出ですかね」と低い声の沈重いた調子で訊ねた。「ハア、お出で御座います、貴様は?」と片眼の細顔の、和服を着た受付が丁寧に言った。「これを」と出した名刺には五号活字で岡本誠夫としてあるばかり、・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ ピストルに吃驚した竹内が歩哨小屋から靴をゴト/\云わして走せて来た。 栗本は黙って安全装置を戻し、銃をかまえた。橇は滑桁の軋音を残して闇にまぎれこんだ。馬の尻をしぶく鞭の音が凍る嵐にもつれて響いてきた。「どうした、どうした?」・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・そうして、氏名は、 竹内トキ となっていた。女房の通帳かしら、くらいに思っていたが、しかし、それは違っていた。 かれは、それを窓口に差出し、また私と並んでベンチに腰かけて、しばらくすると、別の窓口から現金支払い係りの局員が、・・・ 太宰治 「親という二字」
・・・自由党の竹内茂代女史が大日本婦人会の理事であったことは知らぬもののない名流女史であるし、校長、自由党支部長夫人、病院長などが出ている。進歩党その他の婦人代議士も、大体元代議士夫人、女流教育家、社長夫人、娘、重役、病院長、婦人会関係の知名婦人・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・人間同士の友誼が、対手の死なせかたに表現されなければならなかった当時のモラルも柄本又七郎の行動で表徴されているし、悪意ある方策によってかまえられた名誉の前に、生きるに生きがたい死を敢てする若い竹内数馬の苦痛に満たされた行動は、内藤長十郎が報・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・壁が破れても修繕はしてくれず、家賃ばかり矢の催促にくる大家に対して、借家人同盟の長屋委員会をつくろう等という考えは起さず、壁の穴へは、色紙一枚に雀一羽描いて何百円とかとる竹内栖鳳などというブル絵描きのあやしげな複製でもおとなしくはりつけて、・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・今年の冬は、なるたけ火鉢を入れず、よく日に当りという方向で注意するつもりです。道具立てなかなか面白しいろいろの絵の展覧会がありますが、ひまがなくて。つい時間がおしくて。今竹内栖鳳やその他無カンサ組の文展招待展というのも別コにあって、殆どどれ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
本年の建国祭を期して文化勲章というものが制定された。これは人も知る如く日本で始めてのことである。早速絵では竹内栖鳳や横山大観がその文化勲章を授与され、科学方面でも本多博士その他が比較的困難なく選ばれた。文学の分野に於ては、・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 第一書房から竹内てるよさんの『静かなる愛』という詩集が出ている。 幼いときから苦しい境遇に育って、永い闘病生活のうちに詩をつくって来た女詩人であり、統一された境地を今の心にうちたてている詩人である。 同じ題で六月の『新女苑』に・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
出典:青空文庫