・・・「いや、お言葉はありがたく頂戴しまっけど、どうも、人を笑わすいう気になれまへんので……」 赤井がそう断ると、傍で聴いていた白崎はいきなり、「君、やり給え! 第一、僕や君が今日の放送であのトランクの主を見つけて、かけつけて来たよう・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・北村君は思い詰めているような人ではあったが、一方には又磊落な、飄逸な処があって、皮肉も云えば、冗談も云って、友達を笑わすような、面白い処もあった。前に出版した透谷集の方には写真を出し、後に出した透谷全集には弟の丸山君の書いた肖像画を出したの・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・ 何事につけても柔かくシンナリとあつかって呉れる母親と同じ様に、この美は我々の心を笑わす事も涙をこぼさせる事も出来る力を持って居ると云う事を私は信じ私に対してはまったくそうなのである。 こけおどしの利く勿体ぶった美のかげには常に何と・・・ 宮本百合子 「繊細な美の観賞と云う事について」
出典:青空文庫