・・・A 笑わせるない。B 笑ってもいないじゃないか。A 可笑しくもない。B 笑うさ。可笑しくなくったって些たあ笑わなくちゃ可かん。はは。しかし何だね。君は自分で飽きっぽい男だと言ってるが、案外そうでもないようだね。A 何故。・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・からからからと笑わせるな。お互にここに何している。その虹の散るのを待って、やがて食おう、突こう、嘗みょう、しゃぶろうと、毎夜、毎夜、この間、……咽喉、嘴を、カチカチと噛鳴らいておるのでないかい。二の烏 さればこそ待っている。桜の枝を踏め・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・しかもだね、料理をするのは、もの凄い鬼婆々じゃなくって、鮹の口を尖らした、とぼけた爺さん。笑わせるな、これは願事でなくて、殺生をしない戒めの絵馬らしい。」 事情も解めている。半ば上の空でいううちに、小県のまた視めていたのは、その次の絵馬・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・兄の生まじめな話が一くさり済むと、満蔵が腑抜けな話をして一笑い笑わせる。話はまたおとよさんの事になる。政さんは真顔になって、「おとよさんは本当にかわいそうだよ。一体おとよさんがあの清六の所にいるのが不思議でならないよ。あんまり悪口いうよ・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・そうして皆に、はきはきした口調で挨拶して、末席につつましく控えていたら、私は、きっと評判がよくて、話がそれからそれへと伝わり、二百里離れた故郷の町までも幽かに響いて、病身の老母を、静かに笑わせることが、出来るのである。絶好のチャンスでは無い・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・麦わら帽子だの、蠅たたきだの、笑わせるじゃないか、あんなものでも買うひとがあるんだろうねえ。いまどき蠅たたきなんかを買ってどうするのだろう。蠅たたきだって、羽子板のかわりくらいにはなるかも知れないわ。こんな線香花火なんかよりは、子供には・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・どこか皮肉な、今にも例の人を笑わせる顔をしそうなところがある。また最近にタイムス週刊の画報に出た、彼がキングス・カレッジで講演をしている横顔もちょっと変っている。顔面に対してかなり大きな角度をして突き出た三角形の大きな鼻が眼に付く。 ア・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ それだからヨーヨーは生真面目で、人を緊張させる傾向があり、コリントはどこかとぼけていて人を笑わせる。そうして前者は個人的であり、後者は衆団的である。 夏の頃、神田の夜店の中に交じってコリント台を並べて客を待っているおばさんやおじさ・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・ 気の変な老紳士は観客を笑わせる。踊り場でピストルをひねくり回し、それを取り上げられて後にまた第二のピストルをかくしに探るところなどは巧みに観客を掌上に翻弄しているが、ここにも見方によればかなりに忠実な真実の描写があり解剖がありデモンス・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・しかし今になって考えてみると、かなり数奇の生涯を体験した政客であり同時に南画家であり漢詩人であった義兄春田居士がこの芭蕉の句を酔いに乗じて詠嘆していたのはあながちに子供らを笑わせるだけの目的ではなかったであろうという気もするのである。そうし・・・ 寺田寅彦 「思い出草」
出典:青空文庫