・・・ 日蓮はこの法難によって、経に符合する意味で法華経の行者としての自信を得た。「日蓮は日本第一の法華経の行者也」という宣言をあえて発する自覚を得た。彼がこの小松原の法難における吉隆と鏡忍との殉教を如何に尊び、感謝しているかは、彼の消息を見・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ またこういう放電現象が夏期に多い事、および日中に多い事は周知の事実であるので、前述の時間分布は、これときわめてよく符合する事になる。 場所のおのずから定まる傾向については、自分は何事も具体的のことをいうだけの材料を持ち合わせないが・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・ところが、前述の現品調査の結果でもまさしくこの支柱が最初に折れたとするとすべてのことが符合するのである。こうなって来るともうだいたいの経過の見通しがついたわけであるが、ただ大切なタンバックルの留め針金がどうして切れたか、またちょっと考えただ・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・しかし、それにしても乗っているのが青バスであるのに、服装がどうも自分の想像している名代女優というものの服装とはぴったり符合しない。多分銘仙というのであろう。とにかくそこいらを歩いている普通十人並の娘達と同じような着物に、やはりありふれたよう・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・すなわち、三分ぐらいの符合では偶然だか、偶然でないかわからない事になる。 以上はもちろんかなりいろいろな無理な仮定のもとに行なった計算である。これを逐次修正して言語学者の要求に応ずるように近づけて行くことは必ずしも困難ではないが、ここで・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・ この符合は多分偶然かもしれないが、しかしもしかしたら、以前に類似のお獅子をどこかで見たその記憶が意識の底に残留していたかもしれないという可能性を否定することも困難である。 それにしても魔術師ないしセリストと麻束との関係はやはり分ら・・・ 寺田寅彦 「夢判断」
・・・これは柳北が『花月新誌』に言うところと全く符合している。明治十年五月の『花月新誌』載する所の「詰二上遊客一文」に曰く、「ソレ我ガ上ノ桜花ヲ以テ鳴ルヤ久シ。故ニ花候ニ当テハ輪蹄陸続トシテ文士雅流俗子婦女ノ別ナク麕集シ蟻列シ、繽紛狼藉人ヲシテ大・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・自分の裡に在る一部の傾向で理想化した女性の概念を直今日の事実に持って来て、それと符合しない処ばかりを強調して感じ失望したり、落胆したりしていたのである。 一口に云えば、自分は「人」から思想を抽象するのではなく、逆に、思想を人に割当て、或・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・然し、彼女がたった三本だけ名を知っている掌筋のうち、恋愛の筋がいかにもよそで聞いた女将の身の上と符合しているようなので、ひろ子は少し喫驚した。「ほらね、だからあらそわれない!」「なんどす」「手の筋は正直だからね、女将さんがちょい・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・するとその翌朝故国から来た弟の手紙が、計らずもその先生の断片的な消息を齎して来た、私は生れて始めて、此丈符合した夢を見た。人が呼ぶ偶然の裡には不思議がある。 考えて見れば、大人だと思っていた先生も彼の頃はまだ真個の青年で居られたのだ。恐・・・ 宮本百合子 「追慕」
出典:青空文庫