・・・かば歴史的に固定しているのであるからしかたがないとしても、我々はさらに、現実暴露、無解決、平面描写、劃一線の態度等の言葉によって表わされた科学的、運命論的、静止的、自己否定的の内容が、その後ようやく、第一義慾とか、人生批評とか、主観の権威と・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・即ち、作家の態度が第一義に即しているならば、――独り作家に限らない、すべての思想家がまた、――それは、粛殺な気にみち、理想を追求し、信念に燃えているのである。この種のものに対して、私は、芸術が人生的であり真に社会的意義を有することを否定でき・・・ 小川未明 「正に芸術の試煉期」
・・・それは人間にとって、女にとっても男にとっても第一義の問題である。宗教がなくてもいいということが理不尽なのは、この第一義がなくてもいいということになるからだ。この第一義が決定することを「生死をはなれる」というのだ。 この第一義がきまると、・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ますともござりますともこればかりでも青と黄と褐と淡紅色と襦袢の袖突きつけられおのれがと俊雄が思いきって引き寄せんとするをお夏は飛び退きその手は頂きませぬあなたには小春さんがと起したり倒したり甘酒進上の第一義俊雄はぎりぎり決着ありたけの執心を・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・けれども同時にその源が神秘なものでも荘厳なものでもなくなって、第一義真理の魅力を失い、崇拝にも憧憬にも当たらなくなってしまう。四 知識で押して行けば普通道徳が一の方便になるとともに、その根柢に自己の生を愛するという積極的な目・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・「彫刻家が大理石とブロンズで考えるように、映画家はカメラとフィルムで考えそうして選択することが第一義である。」 役者の選択についても同様である。舞台の名優は必ずしもフィルムの名優ではない。ロシア映画ではただのどん百姓が一流の名優とし・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・一方で家庭的には当時いろいろな不幸があったりして、心を痛め労することも決して少なくはなかったにかかわらず、少なくも自分の中にはそういうこととは係り合いのない別の世界があって、その世界のみが自分の第一義的な世界であり、そうして生きがいのある唯・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・尤も、そうすることによって結局は奉公の第一義にかなうことが出来るという自分勝手な考えもありはしたが、とにかく興味の向くことなら何でも構わず貪るように意地汚くかじり散らした。それが後年何の役に立つかということは考えなかったのであるが、そういう・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
・・・ しかし純粋に科学の進歩という事だけを第一義とする立場からいうとこれは少しアインシュタインに気の毒なような気もする。もう少し心とからだの安息を与えて、思いのままに彼の欲する仕事に没頭させた方が、かえって本当にこの稀有な偉人を尊重する所以・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 近代の物質的科学は人間の感官を追放することを第一義と心得て進行して来た。それはそれで結構である。しかしあらゆる現代科学の極致を尽くした器械でも、人間はおろか動物や昆虫の感官に備えられた機構に比べては、まるで話にもならない粗末千万なもの・・・ 寺田寅彦 「試験管」
出典:青空文庫