・・・それで、間違ったことが書いてあれば、読者はそれによってその筆者がそういう間違ったことを考えているという、つまらない事実ではあるがとにかく、一つの事実を認識すればそれで済むのである。国定教科書の内容に間違いのある場合とはよほどわけがちがうので・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・ 陸地測量部の作業に関する項は知友技師梅本豊吉氏の談話によったが、もし誤記があったらそれは筆者の聞き違えである。 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・新宿の帝都座で、モデルの女を雇い大きな額ぶちの後に立ったり臥たりさせ、予め別の女が西洋名画の筆者と画題とを書いたものを看客に見せた後幕を明けるのだという話であった。しかしわたくしが事実目撃したのは去年になってからであった。 戦争前からわ・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・しかし筆者自身がぽろぽろ涙を落して書かぬ以上は御嬢さんが、どれほど泣かれても、読者がどれほど泣かれなくても失敗にはならん。小供が駄菓子を買いに出る。途中で犬に吠えられる。ワーと泣いて帰る。御母さんがいっしょになってワーと泣かぬ以上は、傍人が・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・という文章がありました。筆者の矢田喜美子という方は、どなたか存じませんけれども、この記事は、何となく私の心にのこりました。ヨーロッパから最近帰って来たある日本人が、今日の日本をみて、みんなの生活が無計画で、食えないといいながらたかいタバコを・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・それは、作品を批評された作家たちにやけどさせたばかりでなく、筆者自身も自分の噴き出した火焔をあびた。 こんにちになれば、「一連の非プロレタリア的作品」を書いた当時のわたし自身の政治的な幼稚さはよくわかる。同時に、その評論をめぐって、そこ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・この筆者は警視庁の特高課から手記を出版されたパンフレットの執筆者で、モスクから脱出してきた見聞記と称して「モスク」を発表した。また、トロツキーの「裏切られた革命」を大綜合雑誌が別冊附録としたようなジャーナリズムの気風についても見のがしていな・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・その文章の筆者は「婦人についてかく言い得るや否やは、問題であるけれども」とただし書を添えながら、元来友情は、お互が対等であって互に尊敬し合うことのできる矜持ということが重要な契機であるから、奴隷や暴君が真の友情をもち得ないということの強調と・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・手紙の筆者である僕というプロレタリア作家は、闘争の激化した現段階で帝国主義日本の革命的勤労大衆の前衛に課せられている任務は、広汎で具体的な帝国主義戦争反対の闘いであり、帝国主義戦争によって生じるあらゆる矛盾のモメントを内国的にはプロレタリア・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・文章そのものが、ここでは、筆者のうけた正直な感銘深さを示していた。火野にあってはただ一つその感銘を追求し、人間の生命というものの尊厳にたって事態を検討してみるだけでさえ、彼の人間および作家としての後半生は、今日のごときものとならなかったであ・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
出典:青空文庫