・・・ 次にある価値を実現せしめることが、それ自らには善でも悪でもないというカントの考えは、価値が平等であるときには正しいが、実質的価値には等級がある。したがって意欲の対象たる価値そのものに即した善悪が存在する。より高い価値を実現する行為はよ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
一 源作の息子が市の中学校の入学試験を受けに行っているという噂が、村中にひろまった。源作は、村の貧しい、等級割一戸前も持っていない自作農だった。地主や、醤油屋の坊っちゃん達なら、東京の大学へ入っても、当然で・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・ハンディキャップの数で等級別に並べてあるそうだが、やはり上手な人の数が少なくて、上手でない人の数が多いから不思議である。黒板に競技の得点表のようなものが書いてある。一等から十等まで賞が出ている。これなら楽しみが多いことであろう。賞品は次の日・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・皮膚の色で人種の等級をきめようとするのが一つ。試験の成績やメンタルテストで人材登用のスケールをきめようとするのが一つ。経済関係の見地だけから社会制度を決定しようとするのもその一つであろう。 これは考えものである。・・・ 寺田寅彦 「猿の顔」
・・・単に糸を引き切る場合ならば簡単なれども、地殻のごとき場合には破壊の起り方には種々の等級あるべし。破壊がただ一回に終らず、数回の段階的変化によるとすれば、これらの推移中に歪みの変化は複雑に起り、場合によりては毎回地震の強度は微弱なる事もあるべ・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・浅間観測所の水上理学士に聞いたところでは、この日の爆発は四月二十日の大爆発以来起こった多数の小爆発の中でその強度の等級にしてまず十番目くらいのものだそうである。そのくらいの小爆発であったせいでもあろうが、自分のこの現象に対する感じはむしろ単・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・さまで優劣の階段を設くる必要なき作品に対して、国家的代表者の権威と自信とを以て、敢て上下の等級を天下に宣告して憚らざるさえあるに、文明の趨勢と教化の均霑とより来る集合団体の努力を無視して、全部に与うべきはずの報酬を、強いて個人の頭上に落さん・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・ 我が日本国にても、政府の官職はただ在職中の等級のみにて、このほかに位階勲章の制を立てず、尊卑はただ政府中、官吏相互の等級にして、かつて政府外に通用せざるものなれば、私の会社中に役員の等級あるが如くにして、他に影響すること少なからんとい・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・総員二十名を出でず。等級によりて月給同じからず。多きは七十両、少なきは十五両乃至二十両、平均一人につき二十五両に過ぎず。二十人にて一月五百両なり。官の費用少くして事務よく整うものというべし。 明治五年申四月学校出版の表によるに、中小学校・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・ 二人の間にはそれから満鉄傭人のこまかい等級差別について話がすすんだらしく、カーキ色が、「二円、三円と一つずつ上って六円までつくからね」と云った。「ふーむ、それが大きいですね」「結局おんなじこってすよ、どこへ行ったって残・・・ 宮本百合子 「東京へ近づく一時間」
出典:青空文庫