・・・ 年の暮の一儲けをたくらんで簡単に狸算用になってしまったかと聴けば、さすがに気の毒だったが、しかし老訓導は急に早口の声を弾ませて、「――しかし行ってみるもんでがすな、つまりその、金巾は駄目でがしたが、別口の耳寄りな話ががしてな、光が・・・ 織田作之助 「世相」
・・・どこで算用が違たやら」「ようい、よい」と野袴の一人が囃す。 横の馬小屋を覗いてみたが、中に馬はいなかった。馬小屋のはずれから、道の片側を無花果の木が長く続いている。自分はその影を踏んで行く。両方は一段低くなった麦畠である。お仙の歌は・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・なるほど一つ一つの花にはそう思えばそうというような小さな茶いろの算用数字みたいなものが書いてありました。「ミーロ、いくらだい。」「一千二百五十六かな、いや一万七千五十八かなあ。」「ぼくのは三千四百二十……六だよ。」「そんなに・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ もとより、めのこ算用で、部分品の全部がくみ合わさった状態における人間を考えたり、それを描いたりすることは、現代の複雑な社会機構の中では不可能である。けれども、それぞれの部分品が、部分品であるだけに、その機能の総和においては全体として存・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・自身、いつ返せるか当のない借金の山を負いつつ、ヴェルデやサンドーの借金の証人に立ったり、いかにも彼らしく、まだ書いてもない小説からの収入までを算用して遣いすぎをやったり。特に一八三一年、派手で鳴らしたカストリィ公爵夫人と激しい恋に陥ってから・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ が、『辰敬家訓』の一層顕著な特徴は、「算用」という概念を用いて合理的な思惟を勧めている点である。彼はいう、「算用を知れば道理を知る。道理を知れば迷ひなし」。その道理というのは、自然現象の中にあるきまりを意味するとともに、また人間の行為・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫