・・・しかし後には夕明りが、径を挟んだ篠懸の若葉に、うっすりと漂っているだけだった。「御主。守らせ給え!」 彼はこう呟いてから、徐ろに頭をもとへ返した。と、彼の傍には、いつのまにそこへ忍び寄ったか、昨夜の幻に見えた通り、頸に玉を巻いた老人・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・もし火星の住民も我我の五感を超越した存在を保っているとすれば、彼等の一群は今夜も亦篠懸を黄ばませる秋風と共に銀座へ来ているかも知れないのである。 Blanqui の夢 宇宙の大は無限である。が、宇宙を造るものは六十幾つか・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ すらすらと歩を移し、露を払った篠懸や、兜巾の装は、弁慶よりも、判官に、むしろ新中納言が山伏に出立った凄味があって、且つ色白に美しい。一二の松も影を籠めて、袴は霧に乗るように、三密の声は朗らかに且つ陰々として、月清く、風白し。化鳥の調の・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
出典:青空文庫