-
・・・ いや、話していないどころか、あたかも蟹は穴の中に、臼は台所の土間の隅に、蜂は軒先の蜂の巣に、卵は籾殻の箱の中に、太平無事な生涯でも送ったかのように装っている。 しかしそれは偽である。彼等は仇を取った後、警官の捕縛するところとなり、・・・
芥川竜之介
「猿蟹合戦」
-
・・・ところどころ籾殻を箕であおっている。鶏は喜んであっちこちこぼれた米をひろっている。子供が小流で何か釣っている。「鮒か。」「ウン。」精の友達らしい。いつの間にか要太郎が見えなくなったと思うていると遥か向うの稲村の影から招いている。汗をふきふき・・・
寺田寅彦
「鴫つき」