・・・彼はその必要品を粗略にするほど、東洋豪傑風の美点も悪癖も受けていない。今の流行語でいうと、彼は西国立志編の感化を受けただけにすこぶるハイカラ的である。今にして思う、僕はハイカラの精神の我が桂正作を支配したことを皇天に感謝する。 机の上を・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・決してこの方面の書物に興味がないわけではないが、ただ自然に習慣となった道順の最後になるために、いつでもここが粗略になるのである。一度ぐらいは、このなんの理由もなしに定めた順序を変え、あるいは逆にしてもよさそうなものであるが、実際にはそのよう・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・生を貫徹するために死をも貫くのであるが、そういう実質において価値ある生命のねうちは実に高く、手前の勝手で粗略には出来ない。この頃、連続的な仕事をもっていて、盲腸などやったから、かえって体のもちかたについて真面目になりました。よかったようなも・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・床の間に並べ有之候御位牌三基は、某が奉公仕りし細川越中守忠興入道宗立三斎殿御事松向寺殿を始とし、同越中守忠利殿御事妙解院殿、同肥後守光尚殿御三方に候えば、御手数ながら粗略に不相成様、清浄なる火にて御焼滅下されたく、これまた頼入り候。某が相果・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
出典:青空文庫