・・・ただ蔵経はかなり豊富だったので、彼は猛烈な勉強心を起こして、三七日の断食して誓願を立て、人並みすぐれて母思いの彼が訪ね来た母をも逢わずにかえし、あまりの精励のためについに血を吐いたほどであった。 十六歳のとき清澄山を下って鎌倉に遊学した・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・国家のために入営するのは目出度いことであり、名誉なことであり、十分軍務に精励せられることを希望する、と。 若ものたちは、村から拵えてよこした木綿地の入営服か、あるいは、紋つきと羽織を着ている。そして、新しく這入ろうとする兵営の生活に対す・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・平凡な日々の業務に精励するという事こそ最も高尚な精神生活かも知れない。などと少しずつ自分の日々の暮しにプライドを持ちはじめて、その頃ちょうど円貨の切り換えがあり、こんな片田舎の三等郵便局でも、いやいや、小さい郵便局ほど人手不足でかえって、て・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・今日はさらに一歩すすめて、この複雑な諸条件はそのままで、いっそうの刻苦精励に向ってふるい立たされているのである。生活の新しい必要は、女に新たなたくましさを与えるであろう。新たな社会的な自覚をも与え、人間としての鍛錬をも加えるだろう。しかしそ・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・そして生涯精励であるいかなる作家も、最後には、自分で書ききれない一篇の小説を、自分の人生の真髄に応じて後に生きつづけてゆく者の間へ遺すものだということにこころうたれた。 宮本百合子 「あられ笹」
・・・たが、それは人間の成熟のために計劃され、整理されたものではなくて自然に、云って見れば父や母の年齢、気質、時代の雰囲気との関係でかもし出されていたものだったから、両親が年をとるにつれて、若々しく克己的で精励だった気分は変化した。そして、大きく・・・ 宮本百合子 「親子一体の教育法」
・・・自身の仕事については、力量に自信をもって精励であり、研究生のように勉強家です。今日と、明日の社会は、若い時代への健康な同情、人間より意志を理解しようとする良心の極少量さえも熱烈に要求しているのですから、私たちは野上さんが、若い時代の近側にあ・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・その親がどのように自分たちの世代を熱心に善意をもって生きて、その子らのためにどんなより美しい、よりすこやかな社会の可能をひらいてやろうとして精励したか、我が家一つの狭い利己的な封鎖的な安泰の希願からどんなに広い、社会や、世界の生活への理解と・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・このでんで、『主婦之友』は戦争中は半分ほのめかされたことさえまるままの一つとしてのみこんで婦人を戦争にかりたて、軍部御用に精励した、あのころのことも思い出された。 アメリカに、いくつかの世論調査機関がある。なかでも、ギャラップ博士の米国・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・終極における愛とは、妻の愛にしろ、母の愛にしろ、波瀾にめげず、社会と自分との裡にあるより人間的な可能性を見きわめ、その実現のためにこの世を凌いでゆける沈着、快活な勇気と精励とを愛する者の心に湧き起す泉の様なものでなければならないのではあるま・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
出典:青空文庫