・・・ 六十何歳かに達した年で、このように精気のある絵をかく女性の粘りというものに、感服し、よろこびを感じたのであった。実物を見られなくて惜しいという気が切にした。 護国寺の紅葉や銀杏の黄色い葉が飽和した秋の末の色を湛えるようになった・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
・・・プチト・ファデットが自分の特別に荒い境遇を変化させて自分の真情からの愛をも完うしてゆく勤勉で精気にみちた姿は、人生への知性というものは、ああいう風にも現れるという活々としたよろこばしい見本の一つである。 又、近頃堀口大学氏の手で「孤児マ・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・苦しく、重く閉されていた重吉の表情はほぐれはじめて、二つの眼の裡にはいつもの重吉の精気のこもった艶が甦っている。ひろ子は、うれしさで、とんぼがえりを打ちたいようだった。「生きかえって来た、生きかえって来た」 ひろ子は、小さい声で早口・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・そこへただ一点、精気を凝して花弁としたような熾んな牡丹の風情は、石川の心にさえ一種の驚きと感嘆をまき起した。「――見事に咲きましたな、旦那」 幸雄は、とうに石川の来たのを知ってでもいたかのようにゆっくり云った。「きれいじゃないか・・・ 宮本百合子 「牡丹」
出典:青空文庫