・・・突き当って右へ折れると、ポン引と易者と寿司屋で有名な精華学校裏の通りへ出るし、左へ折れてくねくね曲って行くと、難波から千日前に通ずる南海通りの漫才小屋の表へ出るというややこしい路地である。この路地をなぜ雁次郎横丁と呼ぶのか、成駒屋の雁次郎と・・・ 織田作之助 「世相」
・・・だから前回に述べたような現実の心づかいは実にやむを得ない制約なので、恋愛の思想――生粋精華はどこまでも恋愛の法則そのものに内在しているのだ。だからかわいたしみったれた考えを起こさずに、恋する以上は霞の靉靆としているような、梵鐘の鳴っているよ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・のではないかと思われる。 勉強がわるくないのだ。勉強の自負がわるいのだ。 私は、君たちの所謂「勉強」の精華の翻訳を読ませてもらうことによって、実に非常なたのしみを得た。そのことに就いては、いつも私は君たちにアリガトウの気持を抱き続け・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・皇室を中心として一つの歴史的世界を形成し来った所に、万世一系の我国体の精華があるのである。我国の皇室は単に一つの民族的国家の中心と云うだけでない。我国の皇道には、八紘為宇の世界形成の原理が含まれて居るのである。 世界的世界形成の原理と云・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・は、その興隆する資本主義社会の可能性で、偉大な人間才能を開花させたのであったが、いまやそろそろ地球をみたす人間社会により広汎な人間性を解放する民主の形態が出来て、新しい世紀の本質的に一歩発展し前進した精華が輝きだそうとしている。真に新らしい・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・横光氏の「自由の精華」に讚辞を惜しまれなかったのであるが、横光氏のこの「高邁」の発明も、その傍観性、非動性、負かされづめで結局勝ったのだという主観的な独善性等に引き下げられて、本質には春山行夫氏が評した次の言葉がふさわしい種類の身ぶりであっ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・有名な源氏物語は藤原時代の封建貴族文化の精華であるといわれているが、あの作品は同じ藤原時代に文盲ではだしで一度び飢饉が来ると道ばたに倒れて飢え死んだ庶民のいかなる心持ちをも反映してはいないのである。文字そのものさえ、貴族に独占されていた。現・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・批判どころか横光の「自由の精華」の前で掌をすり合わしている姿は、一つの歴史的な見ものである。一般の読者にとって「紋章」の魅力あるゆえんは、作品が今日のインテリゲンチアとして共通な、社会的要因の下に立っていることと、たとえ独断であろうと作者の・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
ナチスの暴虐に対して国際的な抗議がまき起っているのは当然であると思います。ドイツのナチスを云々する以前、現在われわれの身辺に京大の瀧川教授の問題があり、過去の文化の精華を最も正しく摂取しようとするマルクシストのみならず、ひ・・・ 宮本百合子 「ナチスの暴虐への抗議に関して」
・・・プロレタリア文学の正しい発展は、歴史的発展と共に有り、社会主義社会に於て最も美わしい精華を持つでしょう。国際性もその時にこそ充分に発揮することが出来ます。 一見全く個人的の事件と見える我々のいろいろの生活、例えば恋愛の葛藤なども、その拠・・・ 宮本百合子 「婦人作家の「不振」とその社会的原因」
出典:青空文庫