・・・発声映画の精髄をつかんだものだという気がする。これと同じようなことをドイツ人日本人がやればまずたいていは失敗するから妙である。 二人の若者の出帆を見送ったイドウ親爺とテレーズとが話しながら埠頭を帰って来る。親爺が「これが運命というものじ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・大火と名のつく程度になってしまってしかも三十メートルの風速で注水が霧吹きのように飛散して用をなさないというような場合に、いかにして火勢を、食い止めないまでも次第に鎮圧すべきかということでも、現代科学の精髄を集めた上で一生懸命研究すれば決して・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・明暸なのは局部に過ぎぬけれども、この局部が king を代表してしかるべき精髄であるからして、ここが明暸に見えれば全体を明暸に見たと同じ事になる。取も直さず物を見るべき要点を沙翁が我々に教えてくれたのであります。この要点は全体を明かにするに・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・プロレタリア文学運動が、二十世紀の世界文学の一発展としてもたらした文学の社会性、階級性についての諸観点、および作品の芸術的実感と歴史に対する客観的認識力との微妙な生きた関係の探求などは、民主的な文学の精髄をなす。なぜなら民主的な芸術感覚はそ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・由来、日本の芸道の精髄は気稟にあった。気魄ということは芸術の擬態、くわせものにまでつかわれるものであるが、これらの場合の進退には、そういう古典的意味での伝統さえ活かされていないのはどういうのであろう。 六月某日。 オペラの「蝶々夫人・・・ 宮本百合子 「雨の小やみ」
・・・民族のさまざまな特質やその特質を更に個性のニュアンスで音楽にうちこめている作品の再現としての演奏が、純粋に音の領域から入ってその精髄にふれてゆくことも、いろいろと考えさせて感興ふかかった。 音楽にも民族の性格が顕著なのは自然だが、その自・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・仮装の心理。仮装の面白さ。仮装のスリルは随分文学にも扱われて来た。仮装の精髄は、仮装しているものの中への感情移入であると文学は見ている。真偽の境がわれからぼやつくところにスリルがかくされていると見ているのである。〔一九三七年六月〕・・・ 宮本百合子 「仮装の妙味」
・・・キュリー夫妻の生涯の価値、科学者としての真のえらさは、一九〇四年の春のある日曜日の朝の会話にその精髄をあらわしていると思います。アメリカから来た一通の手紙が二人の間のテーブルの上におかれています。手紙は、アメリカの技術家からラジウム調製の方・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・そして、そのようなわかりあえるあいてとして互を見出したとき、互に感じる魅力の飽きなさと、調和と、求めあう心などこそ恋愛の精髄で、それは結婚生活の永い年月を経ていよいよ豊富にされ、高められてゆくものだと知っているだろうと思う。 子供を産む・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・常に事物の本質をわかって行きたいと思う心持こそ、文化の核心の精髄であるとともに、人間の人間たる所以であると思う。 私たちが謙遜な心で今日の生活の諸相を省みたとき、文化の問題が最大の危険としてもっているものは何だろう。 いろいろの点が・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
出典:青空文庫