・・・一体、わが国の婦人は、外国婦人などと違い、子供を持つと、その精魂をその方にばかり傾けて、亭主というものに対しては、ただ義理的に操ばかりを守っていたらいいという考えのものが多い。それでは、社会に活動しようとする男子の心を十分に占領するだけの手・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・伯父への御恩返しも、こんな私の我儘のために、かえってマイナスになったようでしたが、もはや、私には精魂こめて働く気などは少しもなく、その翌る日には、ひどく朝寝坊をして、そうしてぼんやり私の受持の窓口に坐り、あくびばかりして、たいていの仕事は、・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・どんな小さい経験もそれを精魂こめて経験したものにとっては、ただ消えてゆくことではないのである。スーザンは、そこに自分の命を貫いて脈々と世代を重ねてゆく人類の命の本質を感じるのであった。「この誇らかな心」のスーザンをこのような女性として描・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・そして、これまで余り古典にふれなかった文化層の人々がとりいそぎそういうものにとりついて行って、それらの芸術の逸品に籠っている高い気品、精魂、芳香に面をうたれて、今更に古典の美を痛感すると一緒に分別をも失って、それぞれの芸術のつくられた環境の・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
出典:青空文庫