・・・るというよりは、近代の国際資本の競争におくれて立ちまじった日本の資本主義支配者たちが、世界の間に自立的な伝統と立場とを確立していず、いつも、うすら寒いすばしこさや拙速や漁夫の利で、その場その場を打開し糊塗してきた、その影響である。明治から大・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・例え百人の黒島をひっぱって来て百枚脱退声明取消文を書かしたところで、それが彼等の反動的イディオロギーを、自覚あるプロレタリアート農民の前にどう糊塗出来る?――ふうむ。そんなわけか。じゃあつまり理窟は五分五分で喧嘩両成敗とは行かないんだな・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・と推定して、現状を糊塗しているのである。けれども、戦争に男たちを召集して、第一番に家庭を破壊したのは、誰であったろう。外部の力に無判断に屈従する習慣を、熱心に日本人民の第二の天性としようとしたのは、何者であっただろうか。今日、婦人のモラルの・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・トーキーに駆逐されて口が干上ると起ち上った映画従業員のスト等々数えきれない問題のすべては、戦争によって一時的にせよ自身を糊塗しようとし、一切の犠牲をそのために省みないところのブルジョア側の計画遂行の結果であることを考えさせずにはおかない。而・・・ 宮本百合子 「メーデーに備えろ」
・・・私たち婦人は、現支配者たちがひきおこした戦争惨禍の責任を糊塗しようとして、政府の無能を彌縫しようとして、云々する産児制限に、決して無条件に母なる肉体をさらそうとはしないのである。 今日の私たち日本の人民は、日本の生活がこのようにも艱苦に・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・自分は神霊の存在なんぞは少しも信仰せずに、唯俗に従って聊復爾り位の考で糊塗して遣っていて、その風俗、即ち昔神霊の存在を信じた世に出来て、今神霊の存在を信ぜない世に残っている風俗が、いつまで現状を維持していようが、いつになったら滅亡してしまお・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・或いは彼らの感覚的作物に対する貶称意味が感覚の外面的糊塗なるが故に感覚派の作物は無価値であると云うならば、それは要するに感覚の性質の何物なるかをさえ知らざる文盲者の計略的侮辱だと見ればよい。或いはまたその貶称意味が、「生活から感覚的にならね・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫