・・・剰す所は燕麦があるだけだったが、これは播種時から事務所と契約して、事務所から一手に陸軍糧秣廠に納める事になっていた。その方が競争して商人に売るのよりも割がよかったのだ。商人どもはこのボイコットを如何して見過していよう。彼らは農家の戸別訪問を・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・「戦争だよ、多分。」 父親と商人との話を聞いていたイワンが、弟の方に向いて云った。「いいや!」商人の眼は捷くかがやいた。「糧秣や被服を運ぶんだ。」「糧秣や被服を運ぶのに、なぜそんなに沢山橇がいるんかね。」 イワンが云った。・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・汽車には宵のうちから糧秣や弾薬や防寒具が積込まれた。夕闇が迫って来るのは早く、夜明けはおそかった。 栗本は、長い夜を町はずれの線路の傍で、幾回となく交代しつゝ列車の歩哨に立った。朝が来るのを待って兵士達は、それに乗りこんで出発するのだ。・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・ところが越中島の糧秣廠がやけ両国の方がやけ、被服廠あとがやけ四方火につつまれ川の真中で、立往生をした。男と云えば、船頭と自分と二人ぎりなので五つの子供まで、着物で火を消す役につき、二歳の子供は恐怖で泣きもしない。 そのうちに、あまり火が・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
出典:青空文庫